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第13話 誕生日当日
そして、翌日、誕生日の夜。
ロイも俺も病状が急変することなく、無事に消灯時間を迎えた。
俺たちはロイのベッドに仕掛けを施し(看護師が見回りにやって来ても、一見ロイが布団にもぐって眠ってるように見えるようにして)、病院を抜け出した。
外は寒く、俺は、真ん丸なウサギのようにもこもこに服を着こませたロイの肩を抱くようにしてタクシーを拾った。
「先生の家って遠いの?」
タクシーの中、ロイがウキウキと聞いて来る。
「いや。近いよ。ほらあそこに背の高いマンションがあるだろ? あそこの七階」
「え? あそこ? じゃ先生って通勤は……」
「歩き」
「そうなんだー。なんか意外―」
「意外?」
「んー、北見先生ってなんとなくマイカー通勤ってイメージがあったから」
「車の運転は気を遣うからな。それに自宅は職場から近いにこしたことはないしね。呼び出されてもすぐ行ける」
実は運転免許も車も持っているが、もうずいぶん長いあいだ乗っていない。
それは勿論いつ発作が起きるか分からないからだ。
「そうなんだー……」
少し首を傾げて感心したようにうなずくロイを見ながら、俺は一人思う。
もしも二人が健康体だったら、いろんなところへドライブに行けたのに。
……けれどもロイが入院してくることがなければ二人が出会うことはなかったわけで。
運命の皮肉さを感じ、俺はロイに気づかれないように小さく溜息を零した。
ロイはオレを好きでいてくれて、オレもロイのことを思っている。
残された短い時間で、オレたちはお互いの気持ちを伝えあうことはできるのだろうか……?
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