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第16話 不安なざわめき
ロイの誕生日という砂時計がサラサラと落ちて行く。
楽しいときはあっという間に過ぎ、腕時計の時刻は午前零時を過ぎていた。
「ロイ。そろそろ眠って。明日……もう今日か……は五時過ぎにここを出て病院へ戻らなきゃいけないから、あまりゆっくりは眠れないだろうけど。体、しんどくないか?」
「……しんどくないから、まだ眠りたくない。もっと先生と話していたいよ」
「わがまま言わないの、ロイ」
「…………」
ロイは、ついさっきまでの元気は萎れ、うつむいてしまう。
「ロイは俺のベッドを使って」
リビングの奥にある寝室のドアを親指で示す。
「……え? じゃ北見先生はどこで眠るの?」
「オレはこのソファででも寝るから」
「だめだよ。先生、風邪ひいちゃう」
大きな瞳で心配そうに言われると、理性がどこかへ行ってしまいそうになる。
「平気だよ。エアコンをガンガンにかけるから」
「でもっ……」
「ロイ、君はお客さんなんだから、そんな気を使わなくていいの」
「じゃ、……じゃあ、一緒にベッドで眠ろ? 北見先生」
「は?」
「二人で眠れば暖かいし。そうしようよ。先生」
ロイが俺の服の裾をつかんでくるのには、正直言ってかなり動揺した。
「ち、ちょっと待って。それは……」
それはまずい。
オレはロイが好きだ。
はっきりと恋愛感情を持っている。
そして、恋愛感情を持つということは、ロイに対してそういう欲望を持っているということでもある。
ベッドはダブルベッドで男二人でも眠れるが、愛しい相手と同じベッドで寝て、手を出さないでいる自信は俺にはない。
「どうしてだめなの?」
必死に聞いて来るロイと視線を合わせないようにして、答える。
「……どうしても」
視界の端に移ったロイはどんどんうつむいて行ってしまう。
「北見先生、なんで目を逸らすの? 先生はそんなに僕のこと嫌い?」
「ちがっ……そうじゃなくって」
真逆なことを言うロイの方に視線を戻した次の瞬間、その愛らしい唇から信じられない言葉が飛び出した。
「……先生、僕の最後の誕生日だから、わがまま、聞いて?」
「えっ?」
最後って……。
思わずロイを凝視すると、ロイはうつむいたまま顔を上げない。
サラサラとした長めの前髪で、どんな表情をしているかはよく見えなかった。
「……ロイ?」
「知ってるんだ、僕」
「え……?」
ざわめく胸。
とてつもない不安が心の奥底から込み上げてくる。
知ってるって、なにを?
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