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第17話 運命

「僕は来年の誕生日は迎えることはできないんでしょう?」  ロイの言葉に、俺は激しく狼狽した。 「なにを言って――」 「ごまかさなくったって、いいよ。先生。本当に。自分の体のことは自分が一番分かるってよく言うでしょ……ただの貧血なんかじゃないってことぐらい僕にだって分か――」  そこまで言い、ロイは言葉を詰まらせる。  フローリングの床にパタパタと水滴が落ちた。  ゆっくりと顔を上げたロイが、泣いていた。 「……っ……北見先生、僕が、いなくなっても、僕のこと、忘れないでいて、ね」  涙混じりに、途切れ途切れに紡がれる悲しすぎる言葉。 「ロイ……」  ロイが知っていたなんて。  屈託のない笑顔の裏で、どれだけ苦しんでいたんだろう。  情けないことに俺はそれに気づいてあげられなかった。  医師失格だと自嘲し、唇を噛みしめた。強く強く、血が滲むほどに。 「先生、そんな顔しないで……」  ロイは涙をためながらも懸命に笑おうとしていた。  たまらず、ロイの華奢な手首をつかみ、自分のほうへと引き寄せる。  腕の中にすっぽりとおさまってしまう痩せた体が切ない。  でも。  君はまだ知らないことがある。  俺も同じだってことを。  忘れるも忘れないもない。  だって、俺と君は同じ運命を辿るのだから。  ロイ、オレはずっと怖かった。  自分がこの世から消えてしまう日が来ること。  あきらめたふりをしながらも、怖くて怖くてたまらなかった。  君と出会うまでは。  今は……そう何度でも願うよ。  ロイ、君の命だけは救いたい。

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