17 / 18
第17話 運命
「僕は来年の誕生日は迎えることはできないんでしょう?」
ロイの言葉に、俺は激しく狼狽した。
「なにを言って――」
「ごまかさなくったって、いいよ。先生。本当に。自分の体のことは自分が一番分かるってよく言うでしょ……ただの貧血なんかじゃないってことぐらい僕にだって分か――」
そこまで言い、ロイは言葉を詰まらせる。
フローリングの床にパタパタと水滴が落ちた。
ゆっくりと顔を上げたロイが、泣いていた。
「……っ……北見先生、僕が、いなくなっても、僕のこと、忘れないでいて、ね」
涙混じりに、途切れ途切れに紡がれる悲しすぎる言葉。
「ロイ……」
ロイが知っていたなんて。
屈託のない笑顔の裏で、どれだけ苦しんでいたんだろう。
情けないことに俺はそれに気づいてあげられなかった。
医師失格だと自嘲し、唇を噛みしめた。強く強く、血が滲むほどに。
「先生、そんな顔しないで……」
ロイは涙をためながらも懸命に笑おうとしていた。
たまらず、ロイの華奢な手首をつかみ、自分のほうへと引き寄せる。
腕の中にすっぽりとおさまってしまう痩せた体が切ない。
でも。
君はまだ知らないことがある。
俺も同じだってことを。
忘れるも忘れないもない。
だって、俺と君は同じ運命を辿るのだから。
ロイ、オレはずっと怖かった。
自分がこの世から消えてしまう日が来ること。
あきらめたふりをしながらも、怖くて怖くてたまらなかった。
君と出会うまでは。
今は……そう何度でも願うよ。
ロイ、君の命だけは救いたい。
ともだちにシェアしよう!