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7月31日 木曜日 7月最後の日

直弥の顔色がみるみる青ざめてゆく。 まだ記憶ははっきり戻らない。けれど、確かに飲んだ。浴びる様に。 独りで街をふらついていた所までは覚えているけれど、そこから先は覚えていない。思い出せない分余計に怖い。   「道の端で蹲って倒れてんだもんよ。みんな見て見ぬふりしてたけど、見つけちまったものそう言う訳にもいかないし。俺の性格上」 「それで、もしかして……助けてくれた、んですか?」 直弥は男を仰ぎ見た。 「そう。でも助けたっても、大したことしてないし。拾った」 男は少し癖のある、耳あたりの良い声で笑った。 「すみません、すみません」 「別に礼なんて良いって。”恩人だ”てのも冗談。気にしないで、タナベナオヤさん」 「有り難う、ございました……」 この男性が”拾って”くれなければ、路上に捨てられているゴミ屑と一緒に夜を明かしているか、警察のお世話になっていたかも知れない。 直弥はグラグラな頭を下げた。 「でもさー、サラリーマンってそんな酔いつぶれて良いもんなの?まだ平日だってのに。それともアンタ、タナベさん、もう休みなのか?」 直弥は頭を振った。そのせいでまたグラリと景色が揺れる。休みなんてとんでもない。学生とは違う。盆休みまでまだまだだ。 (明日もあの憂鬱な会社に出勤して……憂鬱な会社……) 「……あ」 まだ木曜。明日も会社だ。 (帰らなきゃ……) 直弥は初めて自分の身なりに目線を落とす。 しわくちゃなシャツ,結び目の存在しないネクタイ。普段は一番忌み嫌っている、酔いどれたおっさんの姿そのままだ。 「ご迷惑おかけしました。また改めてお礼はしますので! き、今日は失礼します!」 「帰るって?」 「あの、家に……」  「どうやって?」 鼻を触りながら、男は当たり前の事を聞いてくる、からかっているのかと思いきや、至極真面目顔で。 「終電無かったら、タクシーででも……あ、あれ?!」 直弥の声が裏返った。  時間を確かめようと何気なくいつもの様に見た腕には、時計がない。 鞄の中を確かめようとした時 「財布も無いよ」 とどめの言葉が先に投げかけられた。 直弥が視線を上げると、男は少し気の毒そうな顔で、見覚えのある空の財布をヒラヒラと振っている。 「アンタの身体の上にこれだけ置いてあった。警察は明日行ってさ。まあ命があっただけ、な」 大きな口で引き攣った笑顔を作り、不器用ながら慰めてくれる姿に、直弥も引き攣った笑顔で力無く答えた。 「早く行こう」 「え?何処に……」 「アンタんち」

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