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8月30日土曜日

――ガチャリ  直弥の言った通り、程なく扉は開いた。  そこに立っていたのは、やはり……遙平。 「直弥」 「遙平、誕生日おめでとう」 「俺、来るって言ったよな?」  直弥と高校生の姿を捉えた遙平は、憮然としている。 「なんでそいつを? 当てつけか?」 「お前に当てつけ出来てりゃ、俺、とっくにしてるよ……」  直弥は寂しげに呟いた。 「遙平も、ダイスケ君も訊いて欲しいんだ」 「俺は遙平の事、今も好きなんだと思う」  遙平の顔色が明るくなった。  反対に血相変わった大介が一歩踏み出した。直弥は後ろ手に大介を抑える。 「フラれた時は、辛くて死にそうだった。 その好きって言うのは、多分情だったり……思い出が多すぎるからね。好きなままフラれたから」 「だけど、俺……」  直弥は息を吐いた。そして、大介の手を探り、握った。 「ダイスケ君の事、好きなんだ。本当の意味で」 「ナオヤさん」 「好きだって? しっかりしろよ、直弥! 相手は高校生だろ!」 「そうだよ、でも……俺の事何があっても見守ってくれるし、誰より好きでいてくれるんだ。 俺の為に吐きたくもない嘘吐いてくれて。泣いてくれるんだ」 「そんなの、若さの勢い」 「そうかもな。今も心の何処かでは思ってる。でも」  直弥は大介と絡めた指に力を込める。 「信じてみたいと思ったんだ。たとえ今だけだとしても……」 「い、今だけじゃねーよ! 一生!」  今まで黙っていた大介が噛みついた。 「だからたとえ、な。そうだとしても今の大介の気持ちは、絶対本当だって解ったから。これから何があっても、後悔しない」 「直弥、お前どうかしてる……」 「あぁどうかしてる、かもな。でも、今自分の気持ち話せて良かったと思ってる。俺に媚びる様なの、遙平じゃないよ。お前はお前らしく好きな様に生きろ。 だからこれが遙平に俺から一番の、誕生日プレゼントになるって思ったんだ。どうせ、俺に会ってからアイちゃんの所に行くつもりだったんだろ?」  直弥にドアを顎でさされ、遙平はゆっくりと後ずさりながら、扉を開けた。 「直弥、俺は絶対、認めないからな。これからも」  振った相手が好きになった奴を、認めるだとか認めないだとか  遙平らしい我が侭な科白を呟きながら、遙平は去っていった。直弥は遙平の後ろ姿を、眼を細めて見送った。  

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