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2月14日土曜日
* * *
一頻り話し遊び尽くし、ほかの部員も眠りについた頃、大介は、携帯を手に取った。
昼から今まで、皆と騒いでいるときも、実はずっと気になっていた。
つっこまれるのがいやでちゃんとは見られなかったけど、何度も盗み見ていた。
昼、弥にメールを送った。
皆で撮った写真と一緒に、自分の思いを簡潔に書いて。……けれど、返事は今もまだ来ていない。
ホテルもゲレンデも電波は入る。昨日覚えた受信確認操作を何度もした。
(皆寝たし、部屋出てどっかで電話かけるか)
返信が無く不安だったけれど、思いを決め上着を掴んで腰を上げた時、携帯のバイブが震えた。
直弥からだ。
かけようと思っていた所にかかってきて、心が通じ合ってる気がして、大介は飛び上りたいほど喜んだ。
「……岩っち? なに?」
大介の動きに吉岡が目を凝らした。
「……あ、あぁーえーーと……ちょっと風呂入ってくる。もう寝ててくれ。鍵もってくし!」
ひそひそ声で告げる。
「いわっち、何回風呂入んだよ。おやすみ」
吉岡の最後の言葉を聞いた後、電気を叩き切り
猛スピードの抜き足で、大介は携帯を握りしめ部屋を出た。
「ナオヤさん!!」
靴を蹴り履きし、廊下を疾走しながら大介は電話に出た。
声が聴きたい。出来るだけ長引かせたい、この電話。どこかゆっくり話せるところに行きたい。気持ちが逸る。
_「ダイスケ……」
待ち焦がれた声で名前を呼ばれただけで、大介は叫びだしそうなくらい浮かれる。
_「今、大丈夫なのか?」
「あぁ! すごいんだ! 今丁度電話しようと思ったらナオヤさんから電話があって……嬉しかった! 部屋出たし、喋れるところ今から行くし!」
_「そうなんだ」
直弥のテンションとは逆に、電話の直弥の声は元気無く聞こえた。
「どうした? なんかあったのか? メールしたけど、返事なかったし。俺、ちょっと心配で」
耳に全神経を集中させながら、大介は階段を駆け下り、ちゃんと声を出して話せるロビーまで目指した。
_「俺も、話したい……」
「ナオヤさん?」
声が殆ど聞こえない。何か言っているのか解らない。
雑音も酷い。雪山だから電波が悪いのか。
漸くロビーに辿り着いた大介は、聞こえよさそうな所を探す。
_「……ダイスケ!!」
耳を極限にまで近づけていた大介は、突然の直弥の大声に驚いた。
_「ちょっとでいい、出れるかい?」
「……え? 出れる?? どこに??」
_「……ごめん、寒いだろうけど、外」
「え?! 外?!」
意味も解らず、大介はひっつかんできたダウンを羽織り、ロビーから外へ出た。
ガラス戸向こうに飛び出した世界は、とんでもない寒さだった。
ゲレンデはカクテルライトに照らされているけれど、夜間営業も終わっていて。
玄関辺りは真っ暗で、雪もちらつき舞いあがり、辺り一面真っ白な銀世界に……スーツ姿がぽつんと立っていた。
買ってから、大事にし離さなかった携帯が、大介の手から滑り落ちて雪の上に落ちた。
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