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2月14日土曜日

  *  *  *     直弥が薄っぺらいコートとスーツをハンガーに吊り下げた時、駆け足の足音と共に大介が訪れた。 「あーもう! アンタの姿見たとき、びっくりしすぎて携帯落としたんだ!」  大介は携帯を撫でている。 「そうだったのか……大丈夫だったかい?」 「全然大丈夫。防水だし。お揃いにしててよかった。こいつ黒いから、雪の上すぐ見つかった」  大介はシングルの狭い一室に、癖のある笑い声を響かせた。  「それに、買い替えといてよかった。前の携帯だったら、もう夜に電池なんて切れてた。本当にナオヤさん凍死させる所だった」  大介の笑い声につられて、直弥もアイに”最近変だ”と言われた笑い声を立てた。 「無茶するなあ」  浅く張ったお湯に足を浸けるように言われ、風呂場の中で直弥は部屋から話しかける声に、大人しく言う事を聞いている。 「あんな靴で雪の中……もうあれ、ダメだろ」  確かに革靴は直弥が脱ぐ時、色が変わっていた。  呆れながらも嬉しそうな声色で、直弥に話しかけながら大介が現れた。緩んでいた直弥の背筋が伸びる。   「病人みたいな格好だな」  ホテル据え置きのペラペラのパジャマを着た直弥を、大介はまじまじと見て笑った。 「だって、何も持ってきて……」  コンビニでとりあえず下着だけ買ってきた。  替えの衣服なんて用意する暇も頭も回らなかった。そんなことに気が付くくらいなら、スーツのままここへは来ていない。  本当に着の身着のまま、感情だけでここまで来た。 「そんなナオヤさん見た事ないから、すごい良いな。なんか」  また直球な言葉を紡ぎながら、一歩ずつ近づいてくる大介に、直弥は足しかつけていないのにのぼせそうだ。顔を無意識に伏せる。  大介の足もとが見えた。スウェットをまくり上げている。格好に気が回ってなかったけれど、寝る前だったんだろう。スウェット上下の姿。 (いくらダウンを上からひっかけていたとはいえ、大介も薄着で) 「外に出て来いなんて言ってごめん。大介も寒かっただろう」  大介の肘を軽く引っ張る。 「俺は、大丈夫だって。嬉しすぎて、寒さなんか感じねー」  湯槽のヘリに腰かけている直弥の隣に、大介も腰を落とす。 「でも、俺も足の感覚無いから、一緒に入れさせてくれ」

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