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2月15日日曜日
ゆっくり振り向くと、満面の笑みで大介が榮に駆け寄ってくる。
大介の背景に広がるロビーにも玄関にも、榮の視界にスーツ姿はもう見えない。
「大ちゃん……」
「なあ、もしかして、見た?」
「な、なにを?」
「俺と居た、あの人」
“あの人”と言った後、大介はまた榮が見たことのない、はにかんだ表情を見せた。
問いかけがあまりに突然で嘘をつけず、榮は軽く頷いてしまった。
「あー、そっか。見たか。まあ、見られたのが榮だけでよかった」
(何が、よかった、だ)
告白もしていないのにアタるのはお門違いと判っていても、人の心知らずな大介の受け答えにイラつく。
「先生に見つからなくてよかったー! アイツ等にもバレたら、煩そうだし」
「何、が?」
「榮、前俺のお守り……名刺拾って電話かけてきてくれたろ? それが、あの人。おれの、大事な人なんだ」
「え?」
まさか、こんなに躊躇なくはっきりと、何の気の衒いもなく告げられるとは思いもよらなかった。
榮は言い訳を聞いてやる、位に思って問いかけたのに。
「だ、大事な人って。男じゃないか。しかも大人の……」
「あぁ、そうなんだ。驚かしたらごめんな。付き合ってんだ。二学期から。
俺はあの人、皆に見せびらかしたいくらいなんだけど……ナオヤさんに迷惑かかったり嫌がるだろうだから、絶対しないけど」
大介は目を細めて、直弥を見送ったエントランスの先を見つめている。
その様子を見て、どうしようもない嫉妬とイラつきが榮を襲う。
「そんなの、僕に言って、バラすかもしれないよ。言いふらしてやるかも。そんな、関係……」
「榮、面白い冗談いうなあ」
大介は笑い出した。
「お前はそんなことしねーよ。俺の知ってる榮は、絶対そんな事しない。誰より信用できる奴だ」
頭をくしゃりと撫でられた。
(もう! なんで大ちゃんはこんな事を、平気で言うんだ?)
僕は僕を解らないのに。
僕は僕を信用できないのに。
(何で大ちゃんは何の掛け値なく、僕を信頼してくれるんだよ)
榮は仕組んだ14日の事やら、渦巻く罪悪感に項垂れた。
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