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3月9日月曜日

――付き合う前、自分が振ったくせに直弥に執着を見せ、挙げ句「俺は認めない」とずいぶん責めた大介の前で、平然と世間話の如く 結婚 を口にするこの男。 (こいつは……多分いつもこんな調子で。こりゃ同じ所にいりゃ直弥さん病むわ)  ただでさえ、ナイーブで自分を卑下謙遜し、悲観的な感情が先走る直弥の事を思う。  大介はたった何分かの接触で、遥平にフラれ捨てられた時の直弥の心労を推し量れた気がする。  身も心もボロボロになり、酔い潰れて道にゴミと一緒に倒れていた。  初めて出会った姿を思い出す。 「それが、自慢のお揃いの携帯か」  大介の掌に握られている携帯を、遥平に凝視されている。  直弥に思いを馳せていた大介は、視線に気付き慌ててポケットにしまった。 「間違えて持って帰って、直弥に怒られたか?」 「いいえ。ナオヤさんはそんなことで、怒らねえ」 「じゃあ少年は泣いて謝って、よしよしイイコイイコでもしてもらったとか?」 「……っ」  無駄に鋭い一言に羞恥が溢れ、大介は俯いた。 「へーえ」  遥平はため息とともに一言吐くと、まだ半分も吸い終わってはいない煙草を缶に投げ入れ、ケースを手にし新たな一本を取り出した。  俯いた視線に入った遥平の手元を、今度は大介が凝視した。  遥平は煙草のパッケージを指で弾き、手元で遊んでいる。  大介は切れ長の目でただ、歯がゆく睨みつけた。    「良く見つけたな、直弥を」    「え?」  二本目に火を付けながら問いかけられた遥平の一言に、大介は初めて遥平の顔を直視した。  遥平の表情は言葉と同じく、全く感情が読み取れない。 「……どーいう意味ッスか?」 「さぁね」 「『見付けた』……」  先程思い出されていた、夜道に蹲って倒れている直弥の姿が、再び大介の脳裏を支配する。 (みつけた……オレ、思った。”見付けた”って)  

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