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3月10日火曜日
* * *
昨日と同じく会話の無い、空間になった。
「……また部長、どやしていたな」
遥平が口火を切った。
直弥は、遥平の大介関係ではない普通の会話を切り出してきたことに少し安心したのか、煙草を一息吸いだした。
「あぁ……」
直弥の物憂げな横顔に見惚れながら、遥平は自分の予想に再び軽く頷いた。
直弥がマジ切れする為、普段接触はほどほどにしている。
だけど、今日は何故かどうしても、姿を見て少し話したかったから、待った。
会話に内容なんてなくていい。直弥と話がしたかった。
したいから、する。非道いと言われようが。
雪が舞い落ちる中、昨日のガキとのやり取りや、昔の直弥に思いを馳せながら、寒くても戻らず直弥を待っていた。
きっと来ると確信していた。
――仕事中、直弥の動きを視界の端で捉えていた。
程なくして、部長に呼ばれる直弥を見た。その姿を確認した後、遥平はここへ来た。
直弥は苛つくと、きっと煙草を吸いに来る。丁度部長に怒られに行ってくれた。
きっと、来る。
今まで付き合って来た行動パターン周知の賜物だった。
「あれ?」
視線を落とした遥平が直弥の手元をみて気づいた。
「煙草、変えたのか?」
「……あぁ、軽いのにした。徐々に止めようと思ってるし」
「いつから変えた?」
「? きょ、今日からだけど……」
「へーえ」
(あのガキ、結構やるな)
遥平は、脳裏に笑顔で張り付いていた大介の姿をかき消した。
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