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3月14日土曜日

*  *  * 「どう? どう?」  背後から嬉しそうに顔をのぞかれ 「うん……ぁ、有り難う」  耳、首筋に息がかかり、直弥は振り向けないまま返事をし、身体を預けた。  背後から全身抱きすくめられ、大介の高めの体温、早めの鼓動が伝わる。直弥も恥ずかしさと、緊張で身体が強ばる。  だけど、はっきり言って (心地良い……)  大介から得られる安心感と、身体が触れ合って抱きすくめられている快感と、幸福感が一気に襲う。  欲しかった物の代わりに身体を使う。  大介はきっと”良いこと思い付いた! ”位の天然で、何も考えてないんだろう。  だけど、直弥にとっては心と身体が昂る状況だった。  直弥はそんな動揺と心の内を悟られない話題を、大介に切り出した。 「そういえば、ダイスケもうすぐ三年生だね」 「ん? あぁ。そーだなー」  大介は直弥の髪を梳きながら絡ませ遊んでいた長い指を止めた。 「進路とか、考えてる?」 「進路かー。俺、勉強苦手だし、身体動かしたいからすぐ働きてーけど、親父が進学しろってうるさいんだ。でも俺も、今まではそんな事言われたってどーでも良いって感じだったんだけど。 ちょっと、考え変えて……悩んでる」 「そうなんだ……何を悩んでるんだい?」  初めて聞いた大介の思いに、直弥も耳を傾ける。 「俺、将来自分で店持ちたいなーとか、ちょっと考え始めて。んで飲食とかだったら、料理修行すりゃいいやとか思ったけど」 「え? ダイスケ?」  大介から突然の将来の科白に、問いかけたのは自分の癖に直弥は驚いた。 「飲食の店って、そんな簡単じゃ」  社会に先にでている直弥は大介に諭した。  夢は結構だけど、自営ってそんな簡単な物じゃない。友人知人で苦労している者もいる。常連の店から愚痴も聞いている。 「そう、そうなんだってな。親父にも進路聞かれて責められたから話したら『そしたら余計大学行け』って。『料理だけ出来てもだめだ、店の経営とかちゃんと学べ』って言われて。 俺、よくわかんねーから、やっぱ親が言うこと正しいんだろーなとおもうし。だから悩んでる」 「そもそもなんで最近そんな夢?」

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