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4月28日火曜日(別)

 ”俺、甘い物苦手だから、食べられない。”  入社後直ぐに迎えた直弥の誕生日、遥平は告げた。  誕生日に直弥自ら用意していたケーキに、遥平は見向きもしなかった。  付き合って行く内、直弥は甘い物が好きなんだと徐々に感じた。   お互いの誕生日やクリスマスやら、要らないとその都度告げても 「か、形だから。やっぱり……お祝いだし!」  と直弥は自分の分だけでなく、2人分はある小さなホールケーキを用意してくれていた。 「へぇ、そうなんだ」   遥平自身、直弥の行動を責めたことも咎めたことも一度もない。  逆に気をかけた事も、無かった。  ケーキに一瞥だけをくれ、存在を忘れ時を過ごした。  正直、何も気にもとめなかった。   ――今日、帰社途中に買ってきた。  流れる街並みにふと目に入ったケーキ屋。 「そういや、直弥好きだったな」  今日は直弥の誕生日だと朝から気付いていた。と同時に、どんなプレゼントより何故だか、ケーキが思い出された。  当時、用意してくれていても礼一つ言わず、あんなに存在を無視していた癖に。 (……何故だ)  アイは遥平が味覚の嗜好を告げてから、自分で自分の分だけ買って食べているから、遥平は今日初めて店に入って、自分でケーキを買った。  昔、居た直弥の場所。  助手席にケーキの紙袋を置き、車を走らせる。 「あ、そうか」  遥平の口から、独り言がこぼれた。 (判った)  何故だかケーキを思い出した、訳。    「そうだ……」 (ケーキを美味そうに食べる直弥が) 「究極に可愛かった……からな」  貰った物より行った所より、何より覚えている。直弥の姿。  遥平は少し笑って、自分の行動に納得した。  自分の手にある紙袋を見遣る。  別に今更、何をどうしたい訳でもない。  ただ、美味そうに食べる姿がもう一度見たい。それだけだ。  遥平から直弥一人に渡した所で、絶対食べちゃくれないだろうから、とりあえず数を買ってきた。  女子社員に配らせりゃ、今日帰って食べるとしても断れないだろう。あの性格。  誕生日、食べている姿を見られるだけで良かった。見たかったから、行動に移した。  正直言うとガキより先に、ケーキを食べる直弥の顔が見たかった。  ……けれど、間に合わなかった。

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