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6月4日木曜日 深夜
――この二ヶ月
教師になってから、こんなに一人の生徒を観察したことはないんじゃないかと思うほど見た。
杉崎は見続けた。遠野を。
めちゃくちゃ見た。見てみた。
泣いた理由も、嫌われている理由も皆目見当がつかず、観察してきたというか、観察するしかなかった。
舌打ちされたとき感じたけれど、過度に構うのは更に嫌われそうで……
手のかからない優等生だった子の、遅れてきた反抗期なのか
でも、杉崎に対して限定の態度だと感じるし、何か自分が嫌われるきっかけがあったのかとも思う。
だけど、わからない。
機嫌を取ることも心配することも、また聞くことも出来ず、様子を見るしかなかった。
見ると言っても凝視は出来ない。
繊細で聡明な子だから、たちまち気付くだろう。
なので、盗み見た。
視線は外し、視界の端に捉える。
自分を隠す(全く隠れてないだろうが)、見たついでに見る、振り向いたついで、見渡したついで。
もし、杉崎の視線を配せる様を分析出来る機械があれば間違いなく、生徒をストーカーする教師として捕まるだろう観察眼。
徐々に高まる盗み見の技術。
この先同じ様な生徒に出会ったとき、役に立つだろうか、立ってくれ。と思いながら遠野観察を続けた。
けれど、ニヶ月過ぎても、これといった成果は得られなかった。
そうでなくでも人の機微を読み取るのは元来苦手で、鈍感でデリカシーに欠けていると言われたこともある。
遠野は物静かないい子で、今は情緒も安定してる。担任で顧問の嫌いな先生=自分にも普通に接してくれる。
今日も部室で見た、二年前から何も変わらないいつもの風景。
観察を始めた結果、ただ対象物遠野ロックオン技術と、無意識に姿を探すスキルが上がっただけだった。だけど……
あんなに観察しても何も得るものが無かった二ヶ月の空白履歴が、さっき画像を見て数秒で埋まった気がした。
何故かわからない。鈍い勘なので自分自身あてにもならない。だけど、感じた。
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