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7月25日土曜日
(そんなに言いにくいんだろうか……)
確かに大介に呼び捨てされる自分を余り想像は出来ないけれど、噛み倒すほど口から出ないなんて。
呼ばれたいなんて思わない。
と言えば嘘になるから余計に言いあぐねている大介を見て、凹んでくる。
同級生や後輩なら最初から簡単なことなんだろう。こんなところに年齢という壁を感じる。
(全然誕生日おめでとうな様相じゃないな……)
空気的にもう、美味しい物食べてお開きにしてもいいかなと思えてきた。
「ダイスケ、ご飯食べないか? お前の好物たくさん買ってるし」
大介は体操座りで膝を抱えたまま顔を上げない。
直弥は臥せている大介の頭を撫でた。
「頭ん中じゃ、いくらでも呼べてたのに……」
大介は少しだけ顔を上げ、切れ長の目を隙間から光らせた。
「呼びたくて仕方なかったのに……」
「うん。わかった」
直弥は宥める様に再び頭をくしゃりと撫でる。
「本人目の前にしたら……緊張して……」
撫でていた手を不意に取られ、大介の両手で握りしめら直弥は少し驚いた。
「後、さん付けが癖になってて、くっついて出るんだ……」
「仕方ないよ。ずっとだったのをいきなり変えるって慣れないだろうし」
「あーー! 何で、あの時」
「あの時?」
「アンタが付き合う事になった日、俺の名前、呼び捨てで呼んでくれた日『俺もナオヤって呼んで』って言ってくれたのに。
俺、恥ずかしいのと格好つけたかったのか自分でもわかんねーけど……断った! 『大人になったら』とかいって……バカか! あの時の俺!」
握っている直弥の手を使って、大介は自分の頭をなぐり始めた。
「ダイスケ……」
直弥はその日の事を思い出し、少し赤面しながら使われている手を抗った。
(緊張して言えないだっって? 俺なんかに?)
人の手を使って自分を殴っている大介の腕に反抗して手を止める。
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