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7月25日土曜日

 言いあぐねている姿を見て、年が上すぎて呼び捨てなんてしづらいのかと感じていた。  そうでなく、『直弥を見ながら呼ぶのは緊張する』と言った。 (こんな俺にまだ、そんな風に……)  斜を向いていた直弥は、手を握られたまま、大介の真正面に向かってにじりよる。 「ダイスケ……」  呼ばれてふと顔を上げた大介の唇を直弥は指でなぞる。いつも笑っている大きな口。  大介が18になって、今初めて触れた。  触れてみたいとは思っていても、普段も恥ずかしいから滅多にこんな事はしない。  大好きな大介の頬や瞼にもペタペタと触れてみる。 「何? 何? どしたんだ? ナオヤさん」  至近距離での直弥の突飛な行動に、大介は少し照れながら戸惑っているが、直弥にされるがままで。  こんな事をしても許されているのは自分だけだと、今日大介の一番大事な日に側に居れる事実で、自惚れる事を許して貰おうと直弥は心で呟いた。 「ダイスケ、ほんとにおめでとう」  耳を掴んだまま、キスをした。直弥は体操座りしている大介の足の間に割って入り、座り込んだ。 ――誕生日  何も要らず、名前だけを呼びたいと言ってくれた大介。  直弥はいつもの照れや自信のなさやプライドや……面倒くさい心を、今日は棚の上に置くと決めた。 「ダイスケ……呼んでみてよ。俺の名前」  大介の胸に顔を埋める。大介の早まった心臓の音が直弥の額に刻まれる。 「ナ、ナオヤ……さん」 「”さん” は要らないよ」  見上げると大介は直弥を穴があくほど見つめていた。  いつもと様子が違う直弥に戸惑っているように見て取れた。  直弥は微笑む。 「なあ、ダイスケ」 「……ん?」 「俺の事、『頭の中じゃいくらでもよべてる』って言ったよな?」 「あ、あぁ。うん。夢でも呼べてる」  「ダイスケの頭の中で、俺は何してる?」 「え?」  大介の鼓動が一段と大きくなった。 「お前が、俺を呼び捨てにしてる時。夢の中で」 「……」 「俺の誕生日の時にダイスケ言ったよな? 言って貰わないと、俺も……解らないよ」

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