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7月31日金曜日
――出会って一年経った。
直弥は一年ぶりのアルコールに口を付ける。
「ッ……」
(う、美味すぎる)
夏にビールというだけでもたまらないのに、一年間、味わうことがなかったから余計。
「ナオヤさん、どう?」
大介は興味津々で顔をのぞき込んでくる。
「どうって……五臓六腑に染み渡るよ」
「?? ごぞう、ろっぷ?」
きょとん顔の大介をみて直弥は我に返った。祖父譲りの爺臭い表現を無意識に。恥ずかしい。
「あ、いや、全内臓に染みるって事」
「へえ、そういう意味か! 流石直弥さん、頭いいな! 俺バカだから聞いた事ねー勉強するわ」
「い、いや、こんな言葉は勉強しなくて良いっ」
直弥はグラスを額につけ顔を隠した。
実際、本当に染み渡る。一口飲んだだけなのに。
残業後、何も食べず空腹のまま来たせいもある。まだ食べ物はテーブルに来ておらず、お通しの総菜のみだ。
それに加え、久々に飲んだからだ。もう既に多少アルコールが回っている。
心地良い感覚と共に、罪悪感が生まれてきた。
――去年の今日
あんな目に遭って、迷惑かけて。酒をやめる時、未来永劫飲まないと心に誓った。
一年経って、うっかり誘惑に負けてしまったが。
酔う感覚から思い出される悪夢。
「ダイスケ、ありがとう。ごちそうさま。乾杯用で一口飲んだけど、俺ソフトドリンク注文するよ」
「え? 何でだよ。飲めばいいじゃねーか」
「いや、やっぱり」
「酔うの、怖い? あのさ、ナオヤさん、」
「ん?」
「禁酒解禁しても、マジで大丈夫だから。そのかわり」
「……?」
「俺と一緒に居るときだけ、飲む事にしてくれよ。俺が居るから、どんなに酔ってもどうなっても大丈夫。助けるし介抱するし絶対ナオヤさん安心だから」
「……」
「だからさ、他の奴や一人の時は飲むなよ! 俺同伴限定解禁!」
大介の癖のある笑い声が個室に響き、大きな口を開けて笑っている顔が目映くて。
直弥はグラス越しでしか見ることが出来なかった。
「ありがとう」
幸せを奥歯で噛みしめて、二口目のビールを流し込んだ。
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