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7月31日金曜日

「ダイスケ!!」  直弥が自分自身に驚いた時には遅かった。大声で名前を呼び、駆け出していた。  離れてゆく後ろ姿を見て、我を失った。  気付くと、本能が理性に勝ってしまっていた。 (ごめん、大介! 俺は……ダメな大人だ) 「い、行かないでくれ!」  走った勢いのまま、大介の背中に体当たりし、しがみつく。  路地で唯一姿が有った猫が、驚いて走って逃げてった。 「……本当に、俺で?」 「決まってるだろ」 「もう、ダメかと思った。 俺、振り向く根性無かった……ナオヤさん、長い間返事無かったし」  触れて気付いた。大介の背中は震えている。 「それは……ごめん。違うんだ。 俺の気持ちは決まってたけど、ただ、突然のことだったから、驚いて……」  直弥は踏み出せなかった本当の理由を言いかけて止めた。 自分の誕生日の時も飲み込んだ本心。  ”こんな俺でお前こそいいのか? ”  聞いて大介がかかっている、俺を好きでいてくれる勘違いの魔法がとけるのが怖いから、言わない。  大介は”自分は卑怯だ”と言いながら、今日ちゃんと直弥に言ってくれた。 (だけど、俺は本当の事、お前に言わない……言えない。大介ゴメン。大人はもっと卑怯だよ)  あんなに悩み苦しんだのに、大介の体温を感じて  今、手中にある事がこの上ない幸せに感じ、杞憂は吹き飛ぶ。 (今の俺が間違いで、これから先、この運命は違ってるとなったら……その時は、神様から罰だってなんだって受ける)  直弥は誓う。  不意に大介の背中が手からすり抜け、視界から消えた。  大介は、直弥の元にしゃがみこんでいる。 「ダイスケ、どうした?」 「乗って」  大介は振り向かず、後ろ手で直弥を呼んだ。 「え、」 「言ったろ、酔ったアンタの面倒は俺だけが見るって。おぶってやる」 「そんな……俺、歩けるよ」 「いいから、早く。ナオヤ」  テコでも動かない大介に呼び捨てされ、おずおずと背中に身体を預けた。 「だ、大丈夫かい?」 「意識無い人間担ぐ方が重いから。今日は全然大丈夫だって」  直弥をおぶって立ち上がり、大介は淡々と歩き始めた。 「ダイスケ……」  大介の首筋に直弥は顔を埋める。  次第にぐちゃぐちゃになった感情が溢れ返って、涙となって零れ落ちた。  程なく、大介が立ち止まった。 「ダイスケ? やっぱり重いんだろ? お、降りる……」

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