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8月13日木曜日 2年目

――あの日、真夜中  端から見るとアホらしい行動、生徒の年表を大真面目に書き、一つの結論に至った翌朝。  ……数ヶ月の悩みが、憑き物が落ちた様に消え失せた。 自分自身不安だった進路指導の三者面談も、至って平静に行うことが出来た。  そんな杉崎の様子に、遠野の方が少し面食らっている様に見えた。  今まで対面する度、冷静な振りをしながらも過度な態度が丸見えだった担任が、泣く所をみられる前の様子に戻っていたからだと思う。  最初は顔が強ばり、緊張した面もちの遠野が、徐々に拍子抜けしていくようだった。  遠野の母親は、綺麗で優しそうな方で、息子の進路を気にしていたけれど、心配するに及び無い成績と素行の良さと説明すると、遠野に似た笑顔を見せた。 「この子をよろしくお願いします」と言われても、笑顔で受け答え出来ている自分がいた。 判ったからだ。  ”何か悪い事をしたかな? ” ”何故嫌われたのだろう? ”  不安と疑問で溢れ返って、見つめ続けた日々だったが、年表を書いて、或る一つの答えが杉崎の中で出た。  遠野の伝記がもし書かれるなら  杉崎は嫌われた敵役として登場するのかと思って居たけれど、遠野の、彼の中ではそんなポジションでもなく。 (俺はただの、名も無い教師A だ)  杉崎はあの夜丸めて捨てた年表を、脳内で再生した。  時系列で分析した結果 (ただ、俺は……たまたま遠野のバツが悪い所に偶然遭遇しただけで……その偶然が重なっただけ。 偶然に空気の読めない俺が、要らない事を言ったせいで……こじれただけだ)  主役遠野の物語は……相手役【大介】が全てで、通行人の【教師A】が、自意識過剰に絡んできて扱いに困った、って所だ。  杉崎は再びベッドに伏せって自嘲し呟く。 「昔からそうだったし。慣れてるから、今回も驚きはしない。 いつも人の物語には、登場人物として出ていない。ましてや相手役なんてなれやしない。出てるのか? と勘違いしたりするけれどそれは思い上がりで ……大概は蚊帳の外だ」  独り相撲していた滑稽な姿だろう自分を嘲笑う。 「傷つけてなくて、嫌われてなくてよかった」  大事な生徒だ。心底思う。  けれど、何ヶ月間の杞憂が肩透かしで、拍子抜けした感情も事実だ。 (だれかが言ってたな。人に好き・嫌いと言われるより、普通 が一番傷つくって)

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