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9月20日日曜日 大介 2年目

 直弥自身肌で感じたことだけれど、学校に出向くことを躊躇していた直弥の事を思って、今日一日大介は細心の注意を払ってくれた。 自分が当番の時、誰もいない時間を見計らって、部室に呼んで。  大介が三年間過ごした部室に、二人きりで居られた。  警戒して短い時間だったけれど、道具や写真や動画を一つ一つ見せてくれた。  心なしか自慢げな大介の横顔が、凛々しく愛くるしかった。  横で説明してくれている大介に、寄り添って腕に絡みたい衝動を抑えたのは内緒だ。  早めに部室を出て、当番が終わるのを待って、連絡して待ち合わせ……校内を足早に回った。  待ち合わせていた木陰で、人混みの中から大介を見つけた時、思わず名前を呼んで手を振りそうになった。  それくらい、モノクロの雑踏の中でも大介の姿は、直弥にとって一人だけ鮮やかな色彩を放つカラーで、抜きんでて見えた。  その大介が校内で自分の元へ駆けてきてくれてたから、自分の今の姿を忘れ、一瞬でも高校時代にタイムスリップした気分になれた。  教室や催し物を一緒に巡り、楽しくて柄にもなくはしゃいだ。  大介の言う通り一般の老若男女も一杯で……二十七歳の自分の気分と姿も、何とか紛れることが出来た、と思う。思いたい。  もう一生無いこの景色を、目に焼き付ける様に、何度も何度も大介の姿を盗み見た。  いつ垣間見ても、大介も嬉しそうにずっと笑ってくれていて。  直弥は楽しいのに、何故だか泣きそうになった。  こんな奇異な体験、臆病な自分の癖に。  実際はほんの些細な事さえ、舞い上がり有頂天になって……本当に大介の事が好きなんだと改めて思い知らされた。  時間より早く切り上げなければと、何とか気持ちを断ち切り『家で待ってるから』と、校内で別れを告げたのに、大介は校門まで見送ってくれた。

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