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9月20日日曜日 大介 2年目

  「……アンタ、泣きそうな顔してんな。なんで?」  大介はいつもの定位置、直弥の膝枕で、携帯を見ながら呟いた。  画面にはおばさん、もとい女神が撮ってくれた画像が表示されている。 「た、太陽が、眩しかったんだよ」 「ふーんそうだったのか。でも、」  大介は長い指でウキウキと携帯をクリックする。 「あのおばさんに、マジ感謝だな! 俺、横だったからナオヤさんの顔見えなかったけど『ほら、もう一回! 笑いなさい! 男前が台無しだよ!』って、ナオヤさん怒られてんの」  大介はおばさんの口真似をして、その時の様子を再現する。  そう、結局女神のおせっかいが爆発して、もう一回撮ってくれた。 「こっちは笑ってる」  2枚目の画像を見ながら、大介も笑みをこぼした。 「あぁ、笑うまで終わらなそうだったからな。頑張ったよ」  直弥も思い出しつられて笑った。 「でも、笑ってても笑ってなくても。どっちもクッソ可愛くて綺麗だけど」  大介は画像を交互に表示させて、見入っている。 「考えたら、ツーショなんて初めてじゃね?」 「そういえば、そうだね」 「俺、めっちゃうれしい。あ、待ち受けにしよ!」 「待ち受けって……お、おい、」 「大丈夫。連休の間だけだって」  大介は携帯を開けたり閉めたりしながら、癖のある笑い声を響かせた。 「おばさん『優しそうなお兄さんだね』とか俺に言ってたけど、俺達が兄弟にでも見えたのかな? 全然似てねーのに」 「あー、そうかも。まあ歳的にそう見えたんだろうね。 俺は高校生にももちろん見えないし、友達っていう感じでもなかったろうし。勘違いしてくれてよかった」 「そうだ。勘違いと言やーさ、あいつらも言ってたわ」 「?」 「部の奴等、俺らが居た時部室覗きに来たんだってさ。片づけん時、『岩っちお兄さん来てたのか』って言われた。あいつらも勘違いしてた」 「え、うそ……」  大介の友達に、知らぬ間に見られていたショックに直弥は血の気が失せた。  あの時、確か……横で説明してくれている大介に、寄り添って腕に絡みつこうと…… (……してた! 俺!) 「あっっぶなーーー!!」 「ん?」 「い、いや、何でもない。でも、見られてただなんて」  こめかみを抑えて項垂れた直弥の顔を見上げ、大介は手を伸ばし、撫でた。 「あぶなくねーって。安心して。ナオヤさんの顔、あいつら『ちゃんと顔見えなかった』って言ってたし。街で会ったって気付かれねーって」 「……」 「実は俺、ナオヤさん呼ぶって決めてから、部室の窓から何度も覗いてシミュレーションしたんだ! ドアは鍵かけてたけど、万が一窓から見られてもナオヤさんの陰になる俺の立ち位置決めて。 俺、バカだけど、こーいうの得意みたいだ! 計算通り見えてなかったって! 俺、結構やるだろ? 褒めて!」 「ダイスケ……」 「だから安心してくれ」 「それに、兄貴って言われて適当に笑って流したし。俺が兄貴って言ったわけじゃねーから、嘘も吐いてない。勝手に勘違いしてくれた。今は」  愉快そうに笑っていた大介が真顔になった。 「いつか、みんなにちゃんと紹介したい。きっと仲良くなって貰えると思う。 俺は今知られてもかまわねーけど……いつか、ナオヤさんの気持ちが、大丈夫になったら。俺の自慢のアンタを、みんなに」

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