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湊の過去-6

「夢みたい……」 まさか。 水嶋くんと付き合えるなんて。 あのあと……。 「俺も矢嶋がすきだよ!だから付き合って欲しいんだ。嫌かな?」 嫌なわけない。 「嬉しいよ。水嶋くんにと付き合えるなんて」 「じゃあよろしくな。湊」 「え?」 「名前で呼びたいんだ」 それから水嶋くんはぼくを名前で呼ぶようになった。 「蓮川くん。あのね、ぼく、水嶋くんと付き合うことになったんだ」 「え?」 水嶋くんと付き合うことになったのを蓮川くんに報告したら驚いていた。 びっくりもするよね。 幼なじみと友達がある日いきなり付き合うことになったからとか言ってきたら。 「矢嶋って航汰が好きなの?」 「えっと、うん。実は…」 そして。 蓮川くんはぼくの頭を撫でながら言ってきた。 「何かあったらいつでも相談してくれていいから」 真顔でそう言ってきた。 蓮川くんにはきっとわかっていたんだ。 幼なじみだから。 水嶋くんが何故ぼくと付き合ったのかも。 最初の頃は付き合いも良好にみえていた。 でも。 やっぱりサッカー部の人たちとの付き合いだけは外せないからって。 遊ぶことが多くなっていた。 「あーダルいな。でも、休むと授業がわからなくなるし」 無理して学校へ行った。 わかっていたけど、だんだんと気持ち悪くなってくるし、頭は痛いしで動けなくなっていた。 「矢嶋。次、移動教室だよ」 「そうだったね」 「矢嶋!」 蓮川くんはぼくの額に手を当ててきた。 「保健室行こう?」 「え、でも……」 「大丈夫だから。吉澤ー矢嶋保健室連れて行くから」 「矢嶋大丈夫か?って今すぐ連れて行けよ!」 ぼくの顔色が悪いのかクラスメイトの吉澤くんがそう言ってきた。 「先生ー矢嶋がゾンビみたいだからやすませてあげて」 「やっと来たか」 「矢嶋。ノートとかは心配しないで?」 気分悪いし、吐きそうだから頷いた。 「矢嶋、吐きそう?」 本気でやばい。 吐きそう。 「先生ー矢嶋が吐きそうって」 「すぐ行くー。矢嶋、大丈夫だから吐いてしまえ」 「蓮川。大丈夫だから授業に出なさい」 「あとで来るから」 蓮川くんが出ていったあと吐けるだけ吐いた。 「熱もあるね。今年は酷いね、とりあえず寝てなさい」 正直寝たくなんかなかった。 夢みちゃうから。 毎年今の時期に夢をみる。 小さい頃に死んだ父さんたちの夢を。

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