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第3話
「ただいまー。…?母さん?父さん?」
静かな家の中に不安になる。
いつもと同じ一日のはずだったのに。
机の上に置かれたたった一枚の紙切れ。
それだけで俺の人生は狂わされた。
なんで海に電話をかけたのかもわからない。
ただ、気がついたら海に電話をかけてて。
『ん?どした。』
優しく聞こえてくる海の声にすべてを打つ開けてしまいたいと思った。
「俺っ、俺…親に、親…に捨て…られた。俺っ、っは、っ…はぁっ。お…れ、邪魔だって――」
『月!!しっかりしろ!!今すぐ行くからっ!!』
まともに話せてない俺に、海は切羽詰まったような。
そんな声で叫んで電話を切った。
今すぐってどれくらい?
そういって来なかったら?
めんどくせぇって思われてたら――
いつもだったら絶対こんなこと思わないはずなのに、不安で仕方なかった。
海の家から俺の家には最短でも10分はかかる。
だけど――
「…5分たったよ。海、来ないじゃん。やっぱり、嘘だったんだ。海も俺がいらないって思ってて…」
頭では、「海が向かっててくれてても、まだ来ない」ってわかってるけど、一度そう思いはじめたらもう、どうしようもなかった。
ふらふらと立ち上がり、ベランダに出る。
身を乗り出してしたを見下ろす。
マンションの14階…落ちたら死ぬよね。
俺が死んでも生きててもなにも変わらないなら、苦しんでまで生きたくないし、このまま――
そう思い、転落防止の柵に足をかける。
「月っ!!」
突如、悲痛な叫び声とともに俺は引っ張られ、そのまま部屋に中まで連れてかれた。
海…?来てくれたんだ。
でもなんで、死なせてくれないの?ほっといてよ、もう…。
「何してんだよっ!?あっ…ごめ…」
ポロポロと涙を零しはじめた俺を見て、海はすぐに黙った。
なんで、泣いてるんだろう。
死のうとしたのに死ねなかったから?
そのことに安心したから?
海が来てくれたから?
違う、わかってる。俺が泣いてる理由なんて――
「ごめっ、ごめんなさい…ありがとう、来てくれて…。」
誰かに助けてほしかったから。
助けてもらえたから。
「俺こそ、怒鳴ってごめん。でも一体なんで?」
俺を力強く抱きしめて海が囁く。
海から離れようと動くが、海はさらに俺を強く抱きしめた。
「……俺は邪魔だって。だからいなくなっちゃおうかなって思った。だって――俺はいらないんだから。」
弱く、消えそうな声で呟いた俺の言葉に海が息を呑んだのがわかった。
そして、同じように弱く消えそうな声で俺の耳元に囁く。
「そんな…そんなこと言うなよ。」
「え…なんで…」
なんで、海がそんな悲しそうな顔をしてるの?
悲しそうな顔で、悲痛な声で――
「今言うのはずるいってわかってる。だから、今は言えない。だけど――俺がいんだからそんなこと言うなよ。」
そうとだけ言って海は俺の手を掴んだ。
そのまま俺の手を引っ張って、家の外に出る。
「ちょ、どこ行くんだよ…。」
紙には「家は売る。邪魔だ出てけ」とだけ書いてあった。
だから俺は家もない。
多分、海はもうその紙を見てるから分かってるはずなのに。
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