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第6話

「海……」 今、一番会いたくなかったのに。 なんでいるの? 俺はもういらないんだろ? こんな風に助けに来てくれると、まだ期待しちゃうじゃんか…。 「お姉さん、ごめんね。俺ら、今から仕事があって移動しなきゃいけないんだ。」 海が淡々と嘘を並べる。 左腕についた時計を見ながら。 「そーなんだ…。じゃ、じゃあ!今度お兄さん達二人で来てよ!二人ともカッコイイし、ね?お願いっ!!」 そういいながら女は名刺らしきものを取りだし、海に渡した。 海はそれを受けとると俺の手を掴んで歩き出した。 「海!?離せよっ!」 「まだ絡まれたいの?」 慌てて声をかけた俺に、海は冷たく応える。 なんだよ、もう関係ないじゃないか。 そう思うのに、海が隣にいるのが嬉しくて。 それ以上何も言えず黙ってしまった。 そのまま、海がタクシーを捕まえて。 結局俺は海の家に帰ってきた。 海は玄関のドアを勢い良く閉めると、俺をドアに押し付けた。 背中が勢いよくドアの持ち手に当たり激痛が走る。 「いった…なんだよ!?」 「なんで?なんで…やめるって約束したのに!!前髪上げるんだよ!」 悲しそうな顔。 なんでそんな顔するんだよ、そんな顔したいのは俺だってのに。 少しだけ、本当に少しだけつられて眉を下げるが気持ちを切り替える。 「もう、関係ないよね?俺達はもう、付き合ってもないし。何をするのも俺の自由だろ。海には関係ない。」 自分で言っていて胸が苦しくなる。 まだ、こんなに大好きなのに…。 「それは――」 「それに!」 海と話してまた傷つきたくないから。 海の言葉を遮って話し出す。 「好きな奴に精一杯アピールしろよ。両思いなのかなんなのかは知らないけど。あんな…あんな幸せそうな顔するくらい好きなんだもんな。」 胸が痛くて、吐きそうで。 なんで、俺は好きな人の恋愛を応援しなきゃいけないんだよ。 「とにかく、もう金輪際俺に関わらないでくれ。…お願いだからもう、俺で遊ばないでくれ。」 ギュッと両手に力を入れて握りしめる。 海を見るのが怖くて、足元を見る。 「なんで…そんな平気そうなんだよ。やっぱり、俺だけだったんだ。」 か細い、海の声が聞こえる。 消えそうなほど、小さな――。 「何がだよ。もう何でもいいだろ?…幸せに生きろ。じゃな。」 これ以上海と一緒にいたら、まだ一緒にいたいって。 もっと側にいたいって思うから。 今度こそ戻らない。そう決めた。

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