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第9話
『なんで…そんな平気そうなんだよ。やっぱり、俺だけだったんだ。』
そう言ったときの海の表情を思いだし、苦しくなる。
なんで、あんなに悲しそうな顔をしてたんだろうか。
「ハックシュッ…!さっむっ……」
ホテルに何回も行くほど金はないし、なんでさっき出てきたんだろうと後悔する。
いくら夏とはいえ、夜は寒い。
小さくくしゃみをした俺に、隣から視線が寄せられる。
…なんとなく、嫌な予感がする。
そう思い、携帯を取り出す。
寒さなのか、恐さなのか。
腕が震える。
「と…虎。どこだっけ、あっ!あった。」
虎。
高校からの友人で、唯一俺と海が付き合ってる、否――付き合っていたことを知っている。
虎ならきっと話を聞いてくれるし、助けてくれる。
そんな気がして電話をかける。
「もしもし。虎?今、家?」
『俺?今家じゃない。どした?』
相談があって会いたいこと、どうしても今すぐに会いたいことを伝えた。
虎は誰かの家にいるから、少し困った様子だったけど来てくれるって言ってくれた。
「どこか、中で待ってろよ。」
俺を気遣かってくれる、優しい一言を残して虎は電話を切った。
「すみません、お兄さん。」
俺が電話を切り終わるや否や、ずっと隣にいた男から声をかけられた。
男、というより男の子って感じの子。
少し不安な気持ちはあったが、縋るように声をかけてくる男の子に何となく過去の自分の姿が重なって返事をした。
「どうしました?」
「気持ちが悪くて…トイレまで一緒に来てもらったりってできます?」
口元を押さえて、苦しそうに言う男の子が心配になり頷く。
「ありがとうございます…。俺、累希 といいます。」
「俺は、月っていいます。急ぎましょうか。」
虎には後で連絡すればいいや、という安易な気持ちで動き出す。
不安そうに震える彼を見て、そっと手を握った。
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