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第13話

「起きて、月。着いたよ。」 虎に揺さぶられ、目を覚ます。 一体どのくらい眠っていたのか…全く検討がつかないが、薬の効果が切れていないのには気づく。 でも、さっきよりは少し冷静で虎と普通に接することができる。 「ありがとう…虎。薬切れてないみたいだからある程度の距離でお願い。また迷惑かけちゃう。」 虎は何も言わずに、ただ優しく笑った。 そしてエスコートをして俺が車から出るのを手伝ってくれた。 「ところで、誰の家なの?」 虎は誰かの家にいたみたいだったからその家に来たけど、真っ暗でここがどこなのかも全くわからない。 「あぁ、それはね――」 「虎、遅かったな。で、誰連れて来た?俺、部屋で待ってるから早く来い。」 窓だけを開けて、虎に話しかけている相手はちょうど俺が見えていないらしい。 でも俺は嫌でもすぐにわかった。 この声は…。 「虎…海の家にいたの……?」 「あぁ。」 短く、虎が答える。 海の家にいたなら恐らく、俺がフラれたことを知っている。 もし知らなかったとしても、さっき言ったから知ってるのに。 「どうしてっ!?なんで、海の家に…俺を連れてきたっ!?」 「どうしてって…月は勘違いをしてる。だから話し合え。それで…海に助けてもらえ。体、辛いんだろ?」 虎が言おうとしていることはわかった。 でも俺は…もう海のあんな顔を見たくない。 俺には見せない顔で相手を思う海なんて…。 「海じゃなくても…いんだよ。もう…虎が助けてよ!!」 「俺、殺されるから。じゃあ……もし本当に、海じゃ無理だったら俺が助けるよ。」 「無理じゃねぇし、虎になんかに渡さない。月の側にいて、月を助けるのは俺だけだ。」 後ろから声をかけられ振り向く。 いつの間に気づいて出て来たのか不機嫌そうに海が立っている。 キッと虎を睨みつけ、その後俺をじっと見つめてきた。 「海、間違えても俺を殺すな。俺は我慢したから。後で…何があったかちゃんと言うから。」 虎は降参のポーズをして、頭が取れそうな勢いで首を振りまくる。 海はもう一度虎を睨みつけると、俺に近づいてきた。 「月。」 「こ、来ないで!俺らはもう…」 俺らはもう――他人だ。 恋人なんかじゃない。 頭ではわかってるのに、口にするのが躊躇われる。 まだ、俺は好きだから…。 「ごめん。そんなこと言わせたいわけじゃないんだ。」 「嘘はいいんだよっ!普通に話せる友達でいたいならいいよ。そうなろう?昔に…戻ればいいだけだろ?」 すっかり止まったはずの涙がまた、零れだす。 海は、俺の涙を見て息を呑んで震えた。 「そんなこと言うなっ!ちゃんと、ちゃんと話すから…な?本当にごめん。俺は、月が大好きなんだ。」 ぎゅっと、海に抱きしめられ慌ててもがく。 大好きな海の匂いがする。 俺の、大好きな―― 「…うっ……ん……わかっ…た……グスッ……」 海に触れられて、抑えてたはずの感情が溢れる。 海は事あるごとに俺に触って来るから、海の匂いがいつの間にか俺の日常で。 俺の生活になくてはならないものになってた。

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