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第5話 F4αの優美
「はーくそだりぃ。ケン、このあとフケようぜ?」
如月 奏 は有名デザイナーである父親を持ちながら、口が悪い。家ではいいお坊ちゃまを演じているが、口も悪ければ、手を出すのも早い。本人は避妊もしてるし、寄ってくるんだからいいじゃん?と悪気もないのでタチが尚更悪かった。体操着をパタつかせながら、溜息をついては隙を見て抜け出そうとしていた。
「…………俺は授業を受ける。西園寺もそうだろ?」
対して寡黙な門倉 健 は真面目で口数が少ない。父親が警察庁長官だけあって、堅物で頑固だ。一度決めたら揺るがないほど意志が強い。眉を顰めて、じっと教師の説明を真剣な顔持ちで聞いている。
「そうだね、僕も流石に授業は受けるよ。ソウもちゃんと受けないとまみちゃんに怒られるんじゃない? ね、水樹?」
西園寺 悠 は如月の背中をぽんぽんと優しく叩く。まみちゃんとは如月の担任の女教師αだ。優しく見えるが、西園寺は油断出来ない。穏やかで温和で見えるが内なる執拗な執着と冷酷さを持ち備えている。西園寺に見染められ、気に入られ飽きると捨てられ、精神肉体ともにボロボロにされたΩは数知れない。
「勝手にしろ。俺はもう帰る」
アリスが鞄を持って、席を立つのが外から見えた。
(あいつ、勝手に帰る気だ。くそ!)
散々抱いたのに、すぐに自分の元から逃げていくアリスに水樹は舌打ちをした。
どんなに完璧で全てを手にしても、アリスだけは手に入らない。そのじれったさに焦りを感じてしまう。
「えええ! ダメだよ、水樹、今日はちゃんと授業受けなきゃ。君の執事から僕がお目付役として強く言われてるんだから」
西園寺が水樹の手首を掴む。顔は穏やかだが、掴む力は力強い。
門倉も如月も180センチ以上のがっしりとした体格だが、西園寺はさらに逞しく引き締まっている。
「そんなのお前がなんとか誤魔化せば大丈夫だろ」
怒りを示しながら西園寺を睨めるが、西園寺は困った顔で微笑むだけだ。恐らくここで逆らえば、後々面倒な事になるのは明らかだ。西園寺は瀬谷家に精通し、見守り役をかってでている。
「そう言うわけにはいかないよ。ね、健もなんとか言ってあげて」
しょうがないなぁと西園寺は門倉に助けを求めるが、門倉は無言のまま何も言わない。
「まーた水樹はあのアリスっていうβに構ってんの?βのどこかいいんだよ?しかもあのアリス、どこぞのαに村を焼き払われたんじゃないかってぐらい俺達のこと嫌いじゃん?」
如月が揶揄するように横で笑う。
いつも調子良くチャラいがそういう所は目敏い。
「そうだよ、水樹。アリスくんのことはそっとしておいて、婚約者の事をもう少し考えてあげたら?幾らなんでも放置は可哀想だよ」
「黙れ。婚約者など知らん。俺は番など作らない」
はっきりと西園寺に吐き捨てるように言い、その場を離れようとするが西園寺は掴んだ手を離さない。
「そうは言っても、昨日決まったって、僕の所にも連絡きたよ? そろそろ転校してくるんだから、その婚約者のことを大事にしてあげなよ」
西園寺は宥めるように話す。
昨日昼間に、急に婚約者が決まったと執事から冷たい文面でメールが送られてきた。
アリスがいるのに、勝手に婚約者など作りやがって!
「煩い! そんな婚約者、俺には必要ない!」
水樹は掴まれた西園寺の手を振り払い、憤怒した。
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