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第6話 優美の痴
アリスはそのまま帰らず、放課後は保健室に逃げ込んで寝ていた。
雅也には「水樹には家に帰った」とだけ伝言をお願いし、昼前の情事が行われたベッドに戻りこむ。気分は最悪で、身体も怠く重い。こんな日常を毎日送るなんて地獄だ。
昔可愛かった水樹はバース性の定期検査でアリスがβと分かってから、執拗に絡むようになってきた。
(なんだよ、βに特性なんてあるはずがないのに)
「……んぁ……あっ……あっ……」
寝ながら憎たらしい水樹の事を考えていると、掠れた声とぱちゅぱちゅとした濡れた音が耳に入り、アリスは本能で息を顰める。
(なんだ? あっ……?てなんだ? ここは保健室だろ?)
アリスは寝ぼけながら布団から顔を出して左右を確認してしまう。
絶叫するような声にギシギシと軋む音が重なり、アリスは布団から顔を出し、そっと隣をのぞいてその様子に目を見張った。
カーテン越しから二人が何をしているのか、そのシルエットがはっきりと見え艶かしく動いているのだ。
「しっ……。だめだよ、静かにしないと隣に聞こえる」
そうは言いつつ男の声は喜びを孕んで聞こえる。
「で、でも……あぁああっ!……だめっ……悠さん、噛んで、噛んで下さい」
泣き啜るような声にバクバクと心臓が跳ねた。
やってる。
いや、自分も水樹とやっていたが、こんなに乱れて甘えるような声は出していない。
(ゆう? だれだ……?)
ベッドの薄い布団に潜りながら、早く終われと悶々と考える。自分でも水樹と先ほどまでここでセックスをしていたが、こんなに乱れきったセックスはしていない。
本当に高校生かよ?
まだ扶養対象者なんだぞッ……!
憎らしく思うが、ギシギシと軋む音は激しくなる一方だ。
「駄目だよ、僕達αは番を安易に作らないんだ。君もそれを分かっているだろ? 性欲処理として僕を使うって、約束したよね?」
蕩けるような低い声にゾクゾクと背筋に悪寒が走ってしまう。その声はあの夜の水樹と似ているが何処となく違い、冷静だった。
「やだっ。やだぁ、早く噛んでぇ!」
(うわわわ!)
Ωらしき男の声に驚く。
これが噂のΩとαのセックスなのだと初めて知る。
自分と水樹のなんて、まるでレベルが違う。自我を失い、まるで物乞いをする様にΩらしき男は本能で激しく腰を揺らしている。
グチュグチュとした泡立つ音が生々しく聞こえ、その卑猥な音に自分のモノが硬くなるのが分かった。
(やばい……。だ、だめだ。他人のセックスで反応したくない)
「んぁっ、アッ。んんっ、だめぇ、だめぇ! お願いッ……ぁ、噛んでぇ、あああああッ、あーー!」
すすり泣くΩが肩を押さえ込まれて、根元まで深く挿入されているのがシルエット越しにも分かった。
まるで動物だった。
βだから分からないが、恐らく相手のΩはヒート状態に期してる。
αの男もそのヒートに反応しつつ、2人とも激しく求め合っている。
「……んっ、いいね。でそうだ」
Ωが絶叫している中、αの男も絶頂に達しているのが分かる。暫く二人の身体が痙攣し、ぐったりとするΩを寝かせると、αの男は優しい声で言い放つ。
「……はぁ、気持ちいい。……ごめん、イッたら帰ってもらっていいかな?暫く一人にさせてくれない?」
「……先輩、わかりました……」
今にも泣きそうなか弱い声が聞こえ、カチャカチャとズボンのベルトを直す音がしてドアが閉められた。パタパタと走り去る足音が響く。
「……ッ……酷い」
アリスは思わず布団の中で呟いてしまった。
なんて男なんだ、最低だ。まるで性欲処理じゃないか……。念仏のように思いながら声に出したことも忘れていた。
水樹はもっと優しかった……ッ……!
布団に潜りながら、水樹の顔が思い浮かぶ。口では横暴だが、身体に気を遣って優しく愛撫をする。
『……アリス、気持ちいいか?』
眉を顰めて上目遣いで見つめられ、何度も達した記憶が蘇り、つい、ズボンに手を伸ばしてしまう。
半勃ちの自分の棒を優しく扱く。
嫌いなのに、何故か水樹を思い出してしまう。
「……んんっ、みずっ………!!!!」
容易くイキそうになるが、唐突に布団が剥ぎ取られ、哀れもない姿と短刀が晒された。
「アリスくん、それ、手伝ってあげるよ」
西園寺悠が乱れた髪で微笑みながらアリスの横に立っていた。
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