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第8話 誤解の智

「あーあ、残念だな。見つかっちゃった」  西園寺はそう呟いて、ぱっとアリスを縫い留めていた手を解いた。名残惜しそうな声でニコニコと笑っている。 「どけ! 西園寺! アリスに触れるな!」  水樹が怒号をあげ、どけようとするがそれより早く身を翻して西園寺はベッドを降りた。 「み、水樹……?」  水樹は眉間に皺を寄せて、こめかみがピクピクと動いていた。あまりの怒りように被害者である自分がビクビクと身体が竦む。水樹は本気で怒っていた。    (こんな水樹、初めて見た) 「相変わらず物凄く執着してるね。婚約者がいるのに、アリスくんが可哀想だよ。」 「黙れ! アリスに余計な事を話すな!」  水樹は西園寺を睨みつけると、やれやれと西園寺は反省もせずに肩を竦める。  余計な事………?  婚約者というフレーズに敏感に反応してしまう。 「はいはい。またね、βのアリスくん。」  それだけ言って、西園寺は微笑みながら去った。今まで温和で一番まともだと思ってただけに、自分の人間の見る目のなさに愕然としてしまう。  (なんだよ、βのアリスって……)  αのアリスもΩのアリスも嫌だが、上から目線で見下したような言い方に腹が立つ。  だからαは嫌いなんだ。どいつもこいつもαなんて良い奴なんていない。αの根付いた偏見に苛々してしまう自分がいる。 「おい」 「え?」  苛々しながら西園寺が消えていく姿を眺めていると、目の前に仁王立ちしている水樹が自分を睨みつけている。 「アリス、西園寺にどこを触られた?」 「……どこって……。水樹に関係ないだろ」  西園寺に舐められ、吸われた乳首がじんじんと気持ち悪い。あれほど水樹の方が良かったと思っていたが、本人を前にすると複雑な気分になる。  それに西園寺が言っていた事が本当ならば、水樹に婚約者がいる。しかも運命の番だという。  (馬鹿馬鹿しい。そんなの都市伝説だ!) 「アリス、見せろ」 「嫌だ! 触るなっ…! 水樹なんて大っ嫌いだ!」  ばちんとアリスは水樹の頬を叩いて、乱れた制服のまま水樹の隙をついて逃げようとした。 「駄目だ、逃がさない」  瞬時、太く逞しい腕に囚われ、またベッドに引き摺り戻される。 「………離せよっ……婚約者がいるんだろっ……! 俺なんてお前に必要ない!」 「俺にはおまえが必要なんだ。婚約者なんていらない。アリス、俺から逃げるな。」  何を勝手な事を言うんだろう。  αなら何をしてでも許されるのだろうか。 「……嫌だ。それなら西園寺と……!」  西園寺の名前を出した途端、掴んだ手の力が強くなる。 「西園寺がなんなんだ?」  物凄い形相で睨みつけられ、言葉を失ってしまう。  なんで自分がこんなに怒られなきゃならない?何にも悪くない。アリスの不満は爆発しそうだった。 「な、なんでもないです……。でも、もう離せ。俺は帰る!」 「駄目だ。消毒してから帰らせる」  そう言って水樹は乱れたシャツのボタンを全て外して上半身が露わに晒される。そっと大きな熱い掌がアリスの腹を撫で、水樹の甘い吐息が触れた。 「消毒って……な……に……すんだ……よっ……いたっ……!」  露わになった突起を強く吸って噛まれる。 ちゅうちゅうと痕を上書きするようにしつこい。 「……後はどこだ?下も触らせたのか?」  水樹は起こりながら、すでに萎びたイチモツを強く握る。 「痛いッ………!」 「アリス、西園寺には近づくな。おまえは俺のモノなんだ、自覚しろ。……雅也がどうなってもいいのか?」  はっと雅也の事を忘れていた自分に気づく。  雅也を守る為に、水樹に身体だけ繋げるように言われたのを思い出す。自分の鳥頭を呪いたくなるほど、忘れていた。 『βってそんなに気持ちいいのかな? 濡れないし、Ωみたいにヒートもない。水樹はどこがいいんだろうね? 単なる性欲処理?』  西園寺のもの珍しそうな声が頭に響く。    (自分は水樹にとって、性欲処理なのか?)  首を横に振りながらシーツを握り締め、水樹の愛撫に耐える。  (雅也の為だ。我慢しなきゃ) 「……くそ! 水樹なんて大っ嫌いだっ…!」 「はっ、強気だな」  水樹は赤くなった頬を緩め、敏感に反応してく自分を楽しんだ。

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