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第13話 讃談の美

 教室に顔を出すだけで、生徒の目が自分に集中するのが分かった。ちなみにこの教室はβとΩが6:4という割合で配置されている。Ωは12名程だ。希少価値が高いΩをこの学園が囲い込み、安全に学習出来るという評判だが、先程の様子を見る限り真実は定かではない。 「ア、アリス、靴下のままだけど、スリッパを取りに行かなかったの? ……そして、その制服どうしたの?」  雅也が驚きながら、大きな制服を眺めながら声をかける。  ――しまった。  スリッパを取りに行くはずだったのに、門倉と如月のせいですっかり上履きの存在を忘れてしまった。おまけに体格が違うせいか、門倉のデカイ制服が目立つ。いかにも俺はαの制服を着てますという主張をしているようにみえてしまう。 「……ちょっと色々あってさ。それより、なんかあったの?」  クラスメイトの視線が自分に突き刺さるが、意味が分からず雅也に小声で聞く。雅也は声を落として、顔を寄せた。 「……転校生が今日来たんだけど、電車でヒートを起こしてしまって、大変だったみたい。その子、痴漢にもあっていたようで、居合わせたF4αの門倉くんが助けたんだ。犯人も捕まえたって」  やるじゃん、門倉。童貞のくせに…………。 急に身につけていた制服を誇らしく感じてしまう。 「で、それが俺となんの関係が?」 「その転校生なんだけど、水樹くんの婚約者なんだ。さらに噂だけど、運命の番のようだよ。だからアリスが水樹くんを誑かして、二人の仲を壊すんじゃないかって誰かが言い出してさ……」  婚約者?運命の番?誑かす?壊す?  アリスには雅也の言葉の意味がイマイチ理解できなかった。  さらにヒソヒソという話し声がわざとらしく、聞こえてくる。  教室の端で雅也と小声で話すが、クラスの全員がこちらを気にしていた。 「……あのさ、まだその婚約者と会った事ないし、なんで俺が悪役みたいになるの?」 「親衛隊じゃないかな……?今は保健室に転校生の付き添いでいないけど、水樹くんがアリスを呼びつける度によくない噂を出してる気がする。いつの間にか、アリスが全部悪いっていう風潮になっちゃってさ。誤解だって言ったんだけど駄目だった……」  意味が分からない。  水樹と運命の番の仲を壊すβ?  因みに水樹に無理矢理尻を犯されて、セフレにされたのは覚えてるが、そんな事をした覚えも記憶もない。  Ω親衛隊の根も葉もない噂はヤバい。昼間のニュースより期待できないほどの出まかせぶりだ。 「……やっぱり俺、この学園を転校したい」  毎日のように水樹にしつこく追われ、こうやって根も葉もない噂を立てられ、荒んだ学園生活におさらばしたい。  婚約者という西園寺の言葉は本当だったんだ。  水樹は自分に話そうとはしないという事は関係ないからだろうか。  しかも運命の番……。そんなすぐに運命の番がいるのだろうか。  世界は広いのに、運命の番が容易く見つかるわけがない。 「それは僕が寂しいよ……。アリスがいない学園なんてつまらないし、悲しいかな」  雅也は寂しそうな顔でアリスを見つめた。  その雅也の為に尻を貫通させてしまったとは流石に本人には言えない。  セフレの件は水樹の冗談なのかもしれない。今度誘われたら、しっかり意思を示して、断ろう。水樹に婚約者がいるならば、自分は用済みだ。それでも関係を続けるなら、断固として、絶対に尻を守ろう。  ちゃんと話せばわかる奴だと思う。  いや、まて。水樹は人の話を聞いた事がない。いや、聞こうともしない奴だと後で思い返した。

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