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第27話 土曜の麒麟

 と、いうわけで土曜日。  現在、誰が目の前に座っているかというと、それは門倉。狭い観覧車に門倉と二人で乗っている。  今日は早朝に集合し、早めのランチを食べてから、目的の水族館へ到着した。楽しみだった水族館はかなり広くて大きかった。巨大水槽内の中を優雅に泳ぐジンベイザメをはしゃぎながら指差し、門倉と眺めて歩き回った。そしてイルカのショーまで十分に堪能し終え、二時間ほどで水族館を後にした。門倉は不愛想で無口と噂に訊いていたが、予想外によく笑うし、よく話す。一緒にいて楽しくてあっという間に時間が過ぎた。  そして、せっかくだからと隣接してある観覧車にも乗り、他愛もない話から紫苑と水樹の話題へと移り、いま非常に気まずい雰囲気となっている。 「門倉さ、紫苑と幼馴染なんだよね? あのさ、ごめん、保健室で西園寺と一緒にいたの俺なんだ……」 「西園寺と?」  門倉は眉を寄せて、怪訝な顔つきになる。 「あ、布団の中にいたの俺です。盗み聞きしたりして、ごめん……。」 「アリスだったのか。……もしかして、お楽しみ中だったか?」 「ばっか! 違うよ! あれは西園寺が急に来て何故か布団に潜りこまされたの!」 「そうか。紫苑とは幼馴染だよ。久しぶり再会して、驚いた。あいつ教室で上手くやっているか?」 「紫苑は優しいし、人気あるよ」  親衛隊以外のΩ、βまでもが紫苑の美貌と性格の良さを気に入っているのは確かだ。 「……ならいいんだ。あいつは昔から変な奴に絡まれやすいんだ。だから俺との関係も伏せた。いまは水樹と婚約しているから、その心配もなくなる」 「やっぱり、紫苑と水樹は婚約者なの?」 「……あの二人は運命の番同士だ。」  はっきりとした口調で門倉は言った。  ――運命の番。その言葉に何故か胸が締め付けられる。 「運命?」 「遺伝子レベルで最高に相性が良い。本能で嗅ぎ分けてそれは逆らえない。だが、俺はそんなのに逢いたくもない。運命の相手なんて自分で決めたいからな」  紫苑が水樹の匂いを欲しがる理由が分かった。運命の番なら全てが説明つく。 「……二人はもう会ってる?」 「さあな。只、すでに紫苑から水樹の匂いがしているから、会っているかもしれない。水樹の様子は変わらないが、いずれあの二人はすぐに結ばれる」  ――運命の番に出会ったら君なんて光の速さで捨てられるよ?  西園寺の柔らかな言葉が頭の中を掠める。  門倉は頂上へ浮上していく観覧車の小さな窓を見つめる。海が一面と広がって見え、先ほど訪れた水族館が小さく右下に視界に入った。 「……そっか、じゃあ、俺、やっと解放されるのかな」  少し笑えた。やっと水樹から離れられる。  そう思うと何故か、ぼっかりと穴が開いた気分になってしまうのは気のせい?  もう顔面に精子を塗りつけられなくて済むというのに、なぜかそう思う自分に驚いてしまう。 「……寂しくないのか?」 「え?」  門倉の涼しげな瞳を見返す。その瞳は綺麗な藍色をしていた。 「……ずっと一緒にいただろ? いつもアリス、アリスと水樹は煩いからな」  確かに何かと、小さい頃からアリス、アリス……と水樹は煩い。身も心も完全に捧げてしまったが、それが全てなくなる。  良かった、水樹にとって一番幸せじゃん。そう思うが、不意に紫苑の言葉を思い出してしまう。 「ちょっとね。紫苑だって、門倉に噛んで欲しいって言っていたじゃん。そっちはどうなのさ?」  いつの間にか一番高い場所に到達した。左右の見晴らしは良く、遠くの幹線道路まで良く見えた。門倉は景色に目を奪われず、こちらを見つめたままだ。 「……俺は無理だ。他に気になる奴がいる」 「え? そうなの?」  門倉はじっと俺を捉えて離さない。  ……え? なに? このイケメンの静まり返った雰囲気。  急に会話が途切れる。沈黙が降りたと思った途端、ガクンと観覧車の動きが止まった。  その拍子だった。俺は有ろうことかバランスを崩してしまい、門倉の胸元へ倒れ込む。  ――門倉の唇と俺の唇が重なった。  キス。  と思った瞬間、ぐっと後頭部を掴まれて、さらに深いキスに変わる。 「……んんっ……!!!!」 「アリス、おまえが好きだ」  まさに突然の告白。

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