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第31話 緋色のリボン
そんなこんなで、一週間経過した。
門倉とはLINLIN を交換し、毎日来るメッセージをスタンプで返している。門倉がおはようと朝に送ってくるので、おやすみと夜にスタンプにて返信する。その繰り返しだ。
意味があるのかは分からないが、門倉もせっせと挨拶のみを送ってくるので、気を持たせないよう細心の注意を払ってる。図書室にも行かず、剣道部の門倉に会わないよう登下校も早々と帰宅する毎日だ。
そして嬉しいことに、アリスの長年の祈りが叶ったのか、水樹からの連絡が途絶えた。学校で性を強制されたり、ザーメン地獄にされたり、乳首に絆創膏を貼ることなく、初めて平穏な日々を過ごしている。
(――はぁ、昔はあんなに可愛かったのに……)
そう、あの筋肉ゴリラは幼年期は可憐なお姫様のように可愛い男の子だった。現在は脳内シナプスまでもが海綿体に侵され、神経すら消滅した傲慢野郎になってしまうなんて誰も信じてくれない。
門倉が自分のことを初恋と思うなら、アリスの初恋は水樹で儚く散っていた。
「アリス、僕と結婚しようね!」
「おう!」
「……どんな事があっても一緒だよ?」
「おう!」
結婚という言葉がよくわからない幼稚園児の会話を今更ながら覚えているのが悔しい。
あの頃の水樹は天使のように微笑み、単純なアリスはなんでも「おう!」と答える阿呆だった。
長い睫毛に漆黒の艶がある黒髪。クリっとした粒らな瞳。苺のようなふっくらした唇。それはもう、どんな女の子より可愛かった。しかも病弱だった水樹は色白で守ってあげたくなる絶対不可侵的存在。
(苛める奴はすぐにコテンパンにして、いつも水樹を守る格好いい男の子が自分だった、のに……!)
『水樹、困ったことがあったら言えよ! 俺が助けてやるからな』
それが俺の口癖だったのに!
なんで、なんで、あの天使があんなゴリラになるんだ!? しかも性欲までゴリラ。性格まで変わってるし!
突然変異した水樹の生態を思い返しながら、ふとアリスの瞼に紫苑の顔が浮かぶ。
紫苑はヒート時期に突入したらしく一週間の休みを取っていた。せっかく仲良くなったのに隣の席が静かで癒やしがないことがこの上なく寂しい。
――水樹の番が紫苑なんて……。
(紫苑みたいな可憐で優しい子に好かれたらどんな奴でもイチコロなのに、まさか水樹の運命の番なんて不憫すぎる……)
あの華奢な身体が破壊されてしまうんじゃないかと勝手に心配してしまう。あんなゴリラに滅茶苦茶にされるのだけは阻止したい。でも、運命の番なんて断ち切れるものなのだろうか。
溜息をつきながら、静かな校舎を重い足取りで歩いていく。散々な一日を振り返る。親衛隊には睨まれ、担任に準備室の後片付けを任されて、すっかり遅くなってしまった。廊下は静寂に包まれ、日も落ちて暗い。
突如、手前の保健室から顔を赤らめたΩらしき小柄な生徒が慌てた様子で走って出ていく。保健室の真横を通り過ぎると、ガラッと扉から長身の男が出てくる。
「やぁ、βのアリスちゃん」
「げぇ、西園寺スケベ」
最悪だとアリスは思った。
まーた、性の営みをしていたな、と西園寺の乱れた髪で予想がつく。
「あ、ちょっと待ってよ、少し話そうよ」
胡散臭そうな笑みを浮かべる西園寺を通り過ぎ、足を進めようすると唐突に手首を掴まれる。
「……話すことなんてないけど」
振り払おうとして、西園寺はスマホを取り出した。
「なら、これ見てよ」
スマホ画面に目が留まる。
観覧車の中、熱い抱擁を交わすカップルが映っている。それは見覚えのある平凡な自分の顔。
「おれ……?」
自分と門倉とのキス。
え?
「ね、これ、消して貰いたいならフェラしてくれない?」
なんなの? 乙女ゲーの世界なの? とアリスは嘆息した。
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