33 / 47

第33話 救助と友情

 そこにいたのは……!  雅也。  ん?雅也?  アリスはその姿に瞠目した。 「ま、雅也?」 「西園寺、アリスから離れろ! 僕は許さないからな!」 「へぇ、あんなに可愛かったのに残念だな。同じβなのにこうも性格が違うんだ。アリスちゃんの方もかなり煽情的で淫乱なんじゃないかって気になるんだよね。何度も縋って泣きついてきたのは可愛かったけどね……」 「う、煩い! おまえなんて大っ嫌いだ! 僕の大事な親友に手を出すなよ! そんなの僕で十分じゃないか!」  雅也は肩を揺らし荒い息を吐きながら、涙ぐむ瞳で西園寺を睨めつけた。  ま、雅也……。  ごめん、話が全く見えない。  えっ、この二人付き合ってるの? 可愛がるって、ナニしちゃったの? なんで? いつ?  そんで、乳首が風邪引きそうなくらい寒いんだけど。  アリスは乳首を晒しながら少ない脳容量で混乱する状況を見渡す。 「お、お二人さん、あの、俺、帰らせてもらえないかな?」 「だーめ。これから、お愉しみなんだから」 「西園寺!」  雅也は西園寺に抱きついて引き剥がそうとする。すると、毛布がズレて西園寺のマグナムフィッシュがボロンとみえた。 「ほーら、みえちゃったじゃないか。それとも、雅也くんがまた舐めてくれるの?」  雅也は顔を赤らめ、ぶるぶると震えながら身じろぎもせずに凝視していた。西園寺の腰に回した雅也の手はビクともしない。 「おまえなんか、おまえなんか……!」  ボロボロと涙が目尻から溢れ、懸命に西園寺を引っ張っていた。西園寺は眉根を下げ、乾いた冷たい視線でそんな雅也を眺めている。  そして、乳首丸出しの無様な姿で息を凝らし、その様子を見守るアリス。  なになになに?  これ、もしかして、めっちゃ刹那いかんじ?  俺、全くこの状況に必要ないよね?  めっちゃモブ男としての役割をまっとうしてないか? 「さ、西園寺?」  悲痛に歪んだ唇を噛みながら雅也は西園寺にしがみついては引き剥がし続け、西園寺は観念したのか呆れ果てた顔つきへと変わった。 「ふぅ……。しょうがないな、今日は観念してあげるよ。ほら、雅也くん、どいてあげるから手を離して」 「嫌だ! もうおまえなんか信じない!」 「そうしないと、ズボンを直せないよ。ほら、キスしてあげるから、ごめんね?」 そう言って、カチャカチャとズボンを直し、ミラクル棒を仕舞い込みながら雅也の唇に軽くキスする。  ちゅっ  ぱん!  雅也は西園寺の右頬を勢いよく叩きつけ、ギリギリと憎悪を瞳に込めて睨んで走っていこうとした。だが、手首を掴まれ西園寺に呆気なく引き留められる。 「きみなんて大っ嫌いだ! 軽蔑するよ。もう二度と近寄らないでくれ」 「ふぅ、βの仔猫ちゃんもなかなかだね。感情を揺さぶられるよ」 「あの……」  (この、拘束、解いてもらえますかね?) 「信じていたのに。最低だ。こんな奴……!」  雅也は昂った感情を抑えようと拳を握り、瞼を閉じるパタパタと涙が床に落ちた。そして濡れそぼった顔を拭った。 「きみはβだろ? 僕達は(つがえ)ないんだから。ね、ほら、行こう」  西園寺は励ましにもならない言葉をかけて、震える雅也の背中を支えるようにぴったりと抱き寄せ、そのまま二人は保健室を後にした。雅也は黙って西園寺と共に消えたのだ。  そう、アリスを残して……。  え、待って、なんなの? 待って、待って、どんな放置プレイ?  雅也、おまえはなんの為に来たんだ……?    無機質な天井を乱れた上半身を上に、拘束された両手を動かす。びくともしないその拘束は西園寺がいかに糞野郎なのかを物語っていた。  雅也、泣いていた。  可哀想過ぎる。あんな好色で浅ましい奴を好きなんて。もっと良い奴は沢山いるのに……。  乳首を丸出しにし、アリスは仰向けになりながら親友の泣き顔を思い返す。西園寺は余裕そうに宥めていたが、見ていて胸が締めつけられる。  釈然としない。  僕たちは番になれない、か。  水樹も紫苑もα(アルファ)Ω(オメガ)だ。バース性なんてこの世になかったら、単純に男同士。それでもあの二人は情交を繰り返している。不自然な動きをした毛布が物語っていた。愛し合っているのか、それとも交尾なのか……。  自分がしたことは、性欲処理なのか? ふと思い返すアリスがいた。 『アリス、好きだ。俺を愛してくれ。おまえだけが俺を愛して欲しい』  耳朶を噛みながら、甘く蕩けるように囁く水樹の艶声を思い出す。いつも水樹の思うままに抱かれてしまう。後孔を丹念に解して、皺を揉みしだくように熱い舌で濡らしてくれた。  濡れない身体を楽しむように水樹は喜んで愛撫を繰り返すのだ。なぜか脳に染み付いてしまった情事を思い出してしまい、むくむくと愚息が反応する。両手は拘束され、引き下ろされた下着からは(せがれ)がむくむくと硬さを持ちはじめる。  途端にガラリっと音を立てて引き戸が引かれた音が響いて聞こえた。  ひたひたと誰もいない保健室に足音が響き、カーテン越しに背の高い影が見える。 「あ、たすっ……!」  助けを呼ぼうとして、口に出すのをやめた。そのシルエットには見覚えがある。 「……アリス?」  門倉だ。  やばい、俺()ってる……  波乱な一日は終わらない。

ともだちにシェアしよう!