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第44話 愛と忠誠
水樹は裸で横になるアリスへ何度もキスを落とす。
唇から足のつま先まで至るところに口づけを繰り返していた。落とされるキスが電気のように痺れ、アリスは唇が触れるたびに熱い吐息を漏らす。それでも満たされない水樹は、この気持ちをどうしていいのか分からず、アリスに触れては唇で濃い痕を残していく。
アリスはそんな水樹に応えるように骨太の肩にしがみつく。眦 は赤く腫れぼったく、焦げ茶色の瞳は蕩けきっていた。
「――アリス、門倉と何回キスした」
水樹は顔を上げて、アリスの顔を見つめた。
アリスは口をぽかんと開けて、睨みつけている水樹に視線を絡ませる。
「へ?」
「それともヤッたのか」
「や、やってないけど、キスはちょっとだけ……」
水樹はむかむかと腹が立ち、服を剥いて裸になったアリスを見下ろす。アリスは怯えながら見つめかえすが、水樹は久しぶりのアリスの肌に興奮してしまいそうになった。それでも門倉への嫉妬が沸き上がり、自分しか知らないアリスの魅力に気づいた門倉が疎ましい。
βだから誰も目に止めないと油断した自分が悪い。まさか門倉にまんまとアリスを奪われそうになって、初めてあんなに烈しい劣情を刺激されるとは思わなかった。
(くそ! 門倉め!)
「もっと、たっぷりとキスしてやる」
「えっ、あっ、……っ」
水樹はアリスの顎を掴んで、荒々しく唇を貪る。唾液が溢れてアリスの口許を伝い落ちると長い舌をねっとりと絡ませ、歯を一本一本と丁寧に舌のさきで舐めていく。
アリスの指先が水樹の肩に食い込み、すがりつくような眼差しで水樹に視線をおくった。
「門倉ともこうしたのか?」
「……んっ、んんっ」
アリスはぴくぴくと反応して応える。片手でアリスの小さく起立している乳首を指で挟むと胸をつきだして強請るように甘える。いとも簡単に妖しく甘美な果実へと変わっていくアリスに腹が立つ。門倉が知っているかと思うと、噛みつきたいほどの憎悪がむらむらと湧いた。
「妬けるな。くそ!」
「だ、だめ! イッちゃう……」
ぷっくりと勃つアリスの乳首がほんのりと色づく。水樹はぎゅっと指の股で扱いてやるとアリスは涙を流して、股間を擦りつけてきた。
「ここでイケるもんな」
「ん、んっ、やだぁ……、水樹のでイキたい……」
アリスはふるふると首を振って、水樹の逞しい胸にしがみついた。その反応が官能的な欲望を疼かせ、水樹の理性を奪っていく。
「可愛いな、アリス。おまえは可愛い」
「……んっ、そんな、紫苑のほうがっ……」
「他の奴の話なんてするな。俺はアリスが一番可愛いんだ」
水樹はアリスの首筋を噛みつく。そして赤黒い歯形痕をつけて、敏感になった乳首へとむしゃぶりつく。
右手を下へ這わせて、焦らすようにアリスの男根を扱いてやる。先走りの液で短刀はすでにぬらぬらと濡れて、易々と絶頂に導けそうだ。
「……はぁ、あっ、あっ、み、水樹、好き」
アリスが水樹の髪の毛を撫でながら呟く。その手は優しく温かい。
「ああ、知ってる」
意地悪そうに水樹は微笑んで、アリスの孔にも手を伸ばす。すでに後孔はひくひくと雄を誘うがまだ固く閉じていた。アリスは物足りなさそうな顔で水樹に訴える。欲しいという表情に水樹は簡単に落ちそうになった。
「んっ、……ずるい……」
「おまえだろ、ずるいのは」
「だって……おれ、ほし……い」
「まってろ。すぐに挿れてやる」
水樹はローションを取ると手のひらに垂らし、ぐちゅぐちゅと揉んで温める。その間、アリスは膝を立てて足を開き、恥ずかしそうに顔を赤らめて大人しく待っていた。
アリスの股間は赤裸々に剥き出され、ふるふると勃ち上がっている。水樹は逸る気持ちを抑えてそっとアリスに近づくと、窄まりへぬるついた指を伸ばした。
「ここ、誰にも触れさせてないな?」
「み、水樹だけだよ……」
アリスは恥ずかしげにシーツに顔を埋めた。Ωならば濡れるところも濡れない場所。番 えないβは一生自分の支配下には置けない。手放したら離れてしまう。それでもβのアリスが愛しい。
「やっぱりおまえは可愛いな。甘い味がする」
水樹はたまらなくなり、アリスの唇にキスした。味もしないのにアリスとのキスは甘く溶けていく。
「味なんて、ないよっ……」
「はは、おまえは甘いんだよ。この味が好きだ」
「俺も、水樹のこと、好き。愛してる」
片手で孔を丹念に解していくと水音が響き、アリスはピクピクと胸の下で震えた。前立腺らしきしこりを撫でると先走りの精液がだらしなく垂れ落ちた。
幾度となく唇を重ねても、掴みどころがない愛にしがみつきたくなる。離したくない。その欲望にどんどんと深くなるキスに、小さく短い舌が水樹に吸いつく。
「誰にも愛されないって言ってたな」
「……ごめんっ、俺、おれ……、あぁっ……!」
アリスの泣き顔がみたくて、ついひどいことを言ってしまう。その表情が水樹の情欲を誘っているのをアリスは知らない。水樹は我慢出来ずにほぐれた孔に自ら楔の先をあてた。孔の皺はふっくらと膨らみ、飲み込みそうな勢いで弛緩してひらく。
「欲しいか?」
いつもなら、やめろっ……というアリスも今回ばかりはこくりと素直に頷く。
水樹は我慢できずに、腰を前へすすめた。
「ほし……い……、挿れて……、んっ」
アリスも自分の尻を動かして、先端をきゅっと飲み込む。その瞬間、ずぶずぶと雄茎を挿れていくと恍惚とした表情へかわり、アリスは背中を仰け反らせた。
「ゆっくり挿れてやるよ、ほら、味わえ」
「あ、あ、あ、やだっ、はや、はやく……」
水樹はアリスの両腕を押さえつけながら、長い雄茎をゆっくりとアリスのなかへ沈めていく。アリスは我慢出来ずにぴゅくぴゅくと事も無げに絶頂へ達した。ぐっと下腹部を揺らすと、痺れるような快感の波に浸っているようにもみえる。
アリスは半開きの唇をぱくぱくと求め、水樹の唇を恋しがる。
「可愛いよ、おまえは」
「ひぁ……、あ、ん、……みずきぃ……」
「全部、欲しくなる」
全て入りきると水樹は締めつける肉壁に深い悦楽を感じてしまう。アリスはそんな水樹を見つめて少し微笑んだ。
「……ん、水樹、気持ちいいの?」
「はっ、余裕ぶりやがって……」
「あ、だめ、あ、あ、ぁっ……」
激しく腰を揺さぶるとアリスが悶えながら喘ぐ。その声は堪らなく甘い。もっと乱れさせたくなる。淫乱で、淫靡なこの身体を全て飲み込んでしまいたい欲望に駆られる。
火照るからだを仰向けにし、アリスの片足を肩に掛けて水樹はアリスの陰部を露わにひらく。
奥まで挿入し、腰を引くと、また奥深く挿入させる。繰り返すごとにアリスの躰が熱くなり、痙攣しては悦びで溢れていく。全て、丸ごと、全部、アリスが欲しい。そんな欲望に駆られる。
「……っ」
「やっ、あ、んっ、……んー……」
ほんのりと赤くなった尻に水樹の鼠径部が当たり、繋がっている接合部から泡立っている音が二人の耳に届く。なにも意味をなさない行為。それが愛しく、胸を熱くさせた。全身から欲しいと興奮してしまう自分がいる。
「何度もやってるのに、随分と感度がいいな」
「や、だって、アッ、んっ……」
「だって、なんだよ?」
「す、きだか……ら……」
喘ぎながらも、伝えようとする健気さに口許が緩んでしまう自分がいた。
初めて身体を重ねているような気分に、水樹は尚も執拗に腰を擦りつける。
「全部、おまえを俺にくれ」
互いが求め合う悦びに二人は酔いしれた。番えなくてもいい、自分の手で乱れていくアリスに侵食され、満たされていく。水樹はアリスを抱きながら、心が洗われていくような安らぎを感じた。
「あげる、あげるから、もっ、あ、あ、あー……」
アリスは精液を出さずになかで何度も果てる。一段と窄まりはひくひくと水樹を締めつけ、水樹はさらに屹立を突きたててアリスの奥へ白濁とした体液をとき放った。熱く濃厚な精液を放つが、渇いた水樹の心はまだ足りない。
水樹はアリスを起こして対面に座らせる。
「深いところまで挿れる」
「だめ、みずき、だめ、だめ、あ、あー……」
アリスは自分の重みで水樹の楔に刺されながら、全て雄を飲みこんでしまう。接合部が見えなくなり、ぱちゅんと音が響いた。
「全てだ。アリス。全てを俺に捧げろ」
水樹はすぐに硬さを取り戻す強張りをアリスの壁に擦りつける。嗅覚が鈍いので、濃厚になるまでたっぷりとしるしを刻んでいくつもりだ。
「……ぜん、ぶ、あげる。……んぁ、あっ……! あっ……好き……」
アリスは唇に口づけながら、王への愛と忠誠を誓った。
水樹はなお硬くなる怒張を突きつける。肌と肌がこすれ、乾いた音と水音が混ざり合って卑猥な音となって響きわたった。発情しなくとも、こんなに興奮している自分が馬鹿馬鹿しくなってしまう。発情 がなくとも、容易く自分はアリスの虜 となってしまうのだ。
「……アリス、おまえが俺の最大の弱みだな」
水樹は軽く笑った。
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