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第6話
◇
夫の肩越しにアカミネは淫売夫を見た。猫を思わせる瞳も見開いた。ショッパーを差し出したままの体勢で固まっていた。踵を返しリビングに戻る。おそらく見間違いだ。仮に見間違いではなく、本当に来客が婚外の性交渉相手だとして昨日の忘れ物を届けに来たにせよ、住所 は教えていない。足音が近付いてくる。リビングへ3人がやってきた。
「美味しそうなテリーヌの詰め合わせをいただきましたよ」
夫はショッパーから紙箱を出してアカミネに見せた。テリーヌ・ド・パテの有名店のロゴが入っている。後ろから普段よりも大人びた身形の淫売夫が現れる。首 を垂れ、萎縮している。
「アクアパッツァ、好きって言っていたでしょう?ちょうど今仕上がったところなんですよ。今盛り付けますね」
夫の付人に促され、対面に少年が座る。何着か服を買い与えたがどういう服だったのか覚えていない。しかし今彼が着ているような趣味のものではなかったことは覚えている。出会った頃の夫が着ていたような野暮ったく、それでいてこだわりも窺えるような。振り返ってみてアカミネは彼に、当時の夫と似通った服を選んでいたことに気付く。
「クロスタータも作ったので今切り分けます」
「俺も手伝う」
目の前に貝とトマトと共に芳ばしく煮付けられた鯛の取り分けらた皿が置かれた。少年は戸惑い顔を上げられずにいる。アカミネはナオマサに自分の席を促した。
「友人同士、向かい合っている方が落ち着くだろう?」
そしてキッチンにいるカナンの傍へ避難した。クロスタータを切っている彼の後ろから肩に触れ、その手は腰に滑り落ちていく。これで大体の話は通じた。
「アップルジュースが買ってありますから、そこに出ているコップに注いでください」
コップが4つ並んでいる。黄味の強い瓶入りの飲み物を指示通りに注いだ。麻で出来たコースターとストローを添えてテーブルに運ぶ。同年代でも似た性格でもない2人の会話は弾んでいる様子がない。婚外性交渉の相手は俯いたままで、ナオマサはその姿を見つめていた。ジュースを運ぶと彼女はアカミネを見上げた。
「そう緊張しないでくれ。自分の家だと思って寛いでほしい」
初対面を装い少年の肩に手を置いた。金髪がゆっくりと上下に揺れるのを見るとまたキッチンに戻り、切り分けられたクロスタータやテリーヌ・ド・パテを運ぶ。4人が揃う。ナオマサの隣に座る。何にも手を付けない客をアカミネの対面にいるカナンが気にした。
「緊張しているのだろう。少しずつ慣れてくるさ」
努めて穏和に振る舞い、平静を保った。どういう巡り合わせで自宅まで乗り込んできたのかは知らないが、カナンの手料理に手を付けないのは気に入らない。作った側からすれば拒否しているように映る。夫はここのところ随分と卑屈になっている。
「大丈夫か?」
ナオマサが硬直している客人の顔を覗き込もうと首を捻った。
「い、いただきますデス。お腹ペコペコだたカラ、頭、こんがらがっちゃっテ!」
「そっか、そっか。遠慮しないで召し上がれ」
カナンは柔和に笑った。客人はチョップスティックスを皿に伸ばす。下手だった持ち方を正しておいたことに安堵する。その時は共にいるのが恥ずかしくないように躾けたが、今カナンを不快にさせずに済んだ。
「美味しいデス。味がよく沁みテテ」
綺麗な箸捌きで身が剥がされていく。一等地にも出入りできるような高級床夫の前でも遜色ない。しかし貢がれた額でいえば隣の淫売夫もそういった高級床夫の域にいる。
「よかった。少し大味だったらごめんなさいね」
淫売夫を観察しながら愛夫の手料理を口にする。他の者のために作られ、自分以外の者向けに味を調整されているのが気に入らない。彼としては愛夫の手料理は自分だけのものにしたかった。他人向けの味付けでも美味かった。普段ならもう少し味が薄く付いている。素材や出汁 を大事にする奥ゆかしい夫なのだ。アカミネも彼と結婚してからは薄味を好んだ。
「本当に美味いな。貴方はどんな料理を作っても美味しい」
「ちょ、ちょっと!」
夫はほんのりと顔を赤くし、きょとんとしている客人を気にする。アカミネは綺麗に白身魚の薄紅色の皮を剥いだ。身は解れやすく食べやすい。丸々1尾を買って捌ける夫が自慢だった。買い出しも2人で行った。
「ホントに、レストランみたいに美味しいデスヨ!」
婚外の性交渉相手はクロスタータも口にした。ストロベリージャムとカスタードが使われ、よく焼けた網目状の生地の下はガーネットのような深い色をしていた。
「チャンダナくん、コーヒーにする?」
カナンは立ち上がった。若い客はアカミネを見ていた。夫の好意を無下にするな、と視線で訴える。
「彼はコーヒーを好まないと聞きました」
隣に居というのにまるで存在感のなかったナオマサが口を挟む。アカミネは客人を視界から外して愛夫の手料理に集中する。
「ご、ごめんなさいデス」
客人はそれに乗った。
「そうでしたか。いいんですよ。コーヒー、好き嫌いがありますものね。他の飲み物もありますからアップルジュースに飽きたらすぐに言ってください。チャンダナくんのために用意したんですから」
「ありがとデス…」
小さなフォークでクロスタータが刻まれていく。断面も美しく、タルト生地、カスタードクリームとその上のストロベリージャムの色味が映える。婚外性交渉相手とする食事は濃い味と高エネルギー、甘いものに甘い飲み物、調味料に頼りきりで胃もたれがする。中流家庭の若者そのままだった。気の利く愛夫はコーヒーを淹れにいく。アカミネも忠犬よろしく彼を追う。邪魔にならない程度に肩や腰に触れる。後ろから抱き竦める。
「今淹れますから」
「手伝わせてくれ」
「それじゃあチャンダナくんにジュース持っていってあげてください。冷蔵庫にありますから」
一度強く抱き締めてから夫を放す。冷蔵庫に見慣れない飲み物のボトルがあり、新しいグラスと一緒に持っていった。
「す、すごく、仲良いんデスネ…う、羨ましいデス」
まさか話し掛けられるとは思わなかった。咄嗟にナオマサを見てしまう。冷淡な印象の割には可愛らしさのある顔立ちが珍しく上目遣いでアカミネを捉えた。初めて彼女に愛嬌というものを感じた。休んでいる犬を思わせる。
「イノイ姉さんニハ、気になる人とか居ない、ノ!」
抑揚おかしく彼は少し前のめりになった。
「特に思い当たる人はいないが」
彼女の瞳が一度だけキッチンを見遣った。無防備な後ろ姿を盗み見ているようで気に入らない。視界に割り込んだ。恋愛を知らなそうではあるが、この既婚者からしてみれば、たとえ敬慕でも妙な感情を夫に寄せられるのは困る。
「口説かれているんじゃないか」
「ち、違うヨ!あ、あ、イノイ姉さんキレーだしカワイイけど、そーゆーのじゃなくテ、違…」
大袈裟に客人は否定した。この少年は女というものを知らない。いくらアカミネがナオマサを男と認識しても世間的には曲がりなりにも女である。
「そういう話にはどう反応していいものか分からないが、ありがとう」
「あぅぅ…えっと…」
「君にはいないのか」
「お、おでッ?おでも、いない…」
金髪が緩やかに揺れた。そして元気のない手がクロスタータを刻む。アカミネは席に戻り、皿に残っている鯛を食らった。カナンがコーヒーを淹れ、遠慮がちな客人にグレープジュースを注いだ。打ち解けた様子はなく客人は静かだった。見せつけるようにアカミネはカナンを褒め続け、少年は硬く笑った。
軽食を済ませると相容れなさげな友人同士2人きりにした。リビングから小さくピアノの音がする。この家にピアノはなく、音はかなり小さかった。そういえば淫売夫を住まわせているマンションのベッドルームに電子ピアノが置かれていたのを何となく思い出す。弾いている姿を見たことはない。カナンは演奏を聴きに行った。この家にピアノはないのだ。アカミネも夫に纏わりつきながら顔を出す。バッテリーと見紛う小型機材から放たれた赤いレーザーがテーブルに鍵盤を描き、接続されたスピーカーから音を出している。テレビの音量ほどに絞られていた。少年は滑らかな手の動きでプロジェクションピアノを奏でる。本物よりは大幅に音質が劣っていた。ナオマサはそれを近くで聴いていた。カナンはハムスターのケージを持ち上げた。客人は怯えたようにプロジェクションされた鍵盤から手を放す。
「もう少し音大きくしても大丈夫ですよ」
それからカナンとネズミと二夫の部屋に戻った。夫は生きた毛玉と遊びはじめる。演奏が再開する。落ち着いた曲調は演奏者からは想像もつかなかった。
「随分と緊張していましたね」
「向こうからしたら完全なアウェイだ。仕方がないさ」
夫はくすくすと淑やかに笑った。
「そんな、どうしてアウェイなんですか。それじゃまるで…」
「違ったかな。貴方が彼女を娘や妹みたいに扱うからさ」
「まさか初めてのお友達が年下の男の子だったのはぼくも驚きましたけれど。ねぇ、ポプちゃんも、同年代の女の子だと思ったよね?」
ネズミは淡いピンクの鼻を伸ばし飼い主の鼻先を嗅いだ。
「明るくて、良い子じゃないですか。ちょっと今日は緊張しちゃってましたけれど、ああいう爽やかな男の子っていいですよね。いつでも守りたくなっちゃうような…」
「自己紹介か」
自虐的な響きを含ませて喋る愛夫に腕を絡ませた。清らかな彼の手は多少育ちがいい程度のネズミを守っている。
「同意できなくて悪いが、俺は貴方しか良いと思えない。だって貴方しか見ていないし興味もないから…他の人のことはまったく分からない」
耳が赤くなっている。同じシャンプーを使っても同じにならない艶やかな髪に頬を擦り寄せる。
「あ、ありがとう……ございます」
ならば何故配偶者の営みがないのかと彼が不満をぶつけることはなくなった。ただアカミネの本音に等しいといえど行動の伴わない甘言を受け入れるだけだった。
『ぼくが君に求めているのは、そんな、友人でも築けるものじゃないんです。ぼくたち、家族にならないで、恋人でいたほうが良かったのかもしれませんね』
胸の中で暴れ、叩くこともなくなった。半分安堵し、半分不安だった。夫は弱そうなネズミを大事そうに抱き締め、親指の股から間抜けな顔が現れた。
「ポプちゃん、お家帰る?」
何も言わない毛物に託 けて愛夫は片夫の腕の中をすり抜け、手の中の生きた毛玉をケージへ帰す。同時に演奏が終わった。ネズミはそそくさと巣箱に引き篭もった。プロジェクションピアノではいまいち伝わらないが、強弱の激しい曲だった。民族音楽的な響きがある。
「家のことは2人に任せて、少し歩きに行かないか」
淫売夫のほうからナオマサに事を告げることはないだろう。仮にあったとしても、賤しい出自の淫売夫はこの地を追放されるか、留まれたとしても歓楽街の最底辺の店で無給に等しく便器になるのだ。共倒れになる。この国に於いて婚外性交渉は犯罪ではなかった。しかし風評はついて回る。困るのは裏表で社会的地位を築いているアカミネではなく、あくまでもこの地を間借りし、法制度のおこぼれに与っている放浪穢多のほうだ。彼等の扱いは、現地人に肉体を差し出すべきである、という程度で、性玩具で処理することと何ら変わりはない。この地に於いて放浪穢多は人の形をしただけの生き物でありそこに人格や権利はない。アカミネは気紛れに放浪穢多の少年に住む場所と十分な金を与えた。他の客を取ることなく、他の者から見返りに肉体を求められることがないように。すべては自身を通し愛夫に病を移さないためだ。
「そうですね。じゃあ、2人に言ってきます」
夫はリビングに向かっていった。先に玄関で待つ。演奏が少しの間止まっていた。何をするにも不器用で粗末な淫売夫がピアノを弾けるとは知らなかった。そういう話をしていたかも知れないが、婚外の性交渉相手の私事に興味など微塵もなかった。聞いていなかったか、覚えていない。愛夫は付人にあれこれと言い置いて玄関にやって来る。外は少し曇ってきていた。手を繋いで公道へ出る。どこに行くかは決まっていなかった。
「今晩は飯店BBQにするか。手料理大変だっただろう?俺が焼いて、俺が片付けるから、貴方は美味しく食べていてほしい」
「悪いです。君が一生懸命真面目に働いてきてくれているから、よく調べて作れる余裕があるだけで…」
「貴方が家を守ってくれているから、俺も気持ち良く働けるだけさ。それなら美味しいアクアパッツァとタルトを食べさせてくれたお礼というのはどうだろう?」
丘ノ上公園のほうへ歩いていく。そこは共有ガーデンより面積はなかったが盛り土があり、頂からは街が一望できる。
「じゃあ、飯店BBQにしましょうか」
優しい風が吹き、彼の毛先を靡かせる。夫はアカミネの見てきた誰よりも透明感があった。風に攫われてしまいそうな儚さがある。手を伸ばし彼の頬に絡む髪を耳に掛けた。
「そろそろ髪、切ろうと思うんです。さっぱり短くいきたいんですけれど、似合いますかね」
「どうだろう。髪はすぐ伸びるから切るだけ切ってみたらどうだ」
似合わないだろうとアカミネは内心で断じていた。しかしすぐに伸びる愛夫の髪にこだわる必要はない。
「君の目に入るんですから、一番似合う姿でいたいんですよ」
「どんな姿でも貴方なら俺はいつでも幸せだ。真新しいのもいいかも知れない。気に入った髪型にするといい。どれも貴方なんだから」
白く美しい指が自分の毛先を一房遊んでいた。
「やっぱり切り揃えるだけにします」
アカミネは愛夫の肩を抱き、公園へ向かう。芝生の植えられた盛り土の法面 に並んで座り下方にある土地を眺めた。
「飯店BBQ、楽しみです」
「この後買い出しだな。ホットプレートを買おう。脂が落ちる作りの」
「じゃあメーカーと型番確認しておかないとですね。焼肉餅 とエビも焼いていいですか?それから…」
腕が触れ合うほど近い夫は膝を強く抱き縮こまりながらくすくす笑う。アカミネは真横の憩いに淫売夫の来訪などまるで頭から抜けていた。はしゃぐ配偶者の可愛らしさに堪えかねて彼の奥の肩に腕を回した。アカミネの肩口に夫が撓垂 れかかる。前髪のかかる額に唇を当てる。
「どうしたんですか」
「あまりに可愛らしいからいけない」
「なんだか今日、変ですよ」
「そうか?」
スモーキークォーツを嵌め込んだような色素の薄い焦茶色の瞳が至近距離で上目遣いになる。この透明感の前に嘘は吐けない。しかし隠し事は山のようにある。
「飯店BBQが楽しみなんでしょう?」
「そうかもな」
「ぼくも楽しみです」
風が強くなり少し寒くなってから自宅に帰った。来客はまだ音質の悪い鍵盤楽器の真似事をしていた。演奏が止む。
「おかえりなさいマセデス」
ナオマサと淫売夫が玄関まで迎えた。2人に家を空けても艶っぽい雰囲気は皆無だった。むしろ繁華街でよく見る同じ年齢の者たちに比べて大人びた印象のあるナオマサまであどけなさを帯びた感じすらした。
「ただいま2人とも。いい子にしてた?チャンダナくん、お夕食はどうするの?よかったら…」
金色の眼差しが穏やかな片夫の肩越しにこちらを捉えた。
「そろそろオイトマしようと思ってたノデ…!あ、あの、今日はホントに、アリガトでした。あの、いっぱいお料理、美味しかったデス…!」
客人はぎこちなく上半身を倒した。
「ううん、お粗末様でした。よかったら、また遊びに来てね」
少年は受け流すように適当な感が溢れたままこくりこくりと頷く。
「楽しかったかい?」
アカミネの問いにも同様にして彼は首肯を繰り返す。
「それはよかった」
「行こう。送っていくよ」
ナオマサが項垂れたままの客人に言った。
◇
チャンダナなどという通称で騙されていた。彼の名前は栴檀 という。アカミネは憤激を秘め淫売夫を住まわせているマンションに踏み込んだ。淫乱な床夫はベッドルームから飛び出てきた。自宅に突撃された日から初めて会う。それを相手も承知しているために立場の弱い身売りは怯えた顔を隠しきれていなかった。アカミネは無言のままそこに立つ。栴檀 は愛想笑いを浮かべ精一杯媚びようとしていた。
「あ、あの…」
「どんな気分だ?」
「あ……え…」
躊躇いながらも近寄ってくる金髪を蟷螂 の如く鷲掴み、ベランダに放り出す。
「舐めろ」
意外にも男性的な額を露わにしながら褐色の手が溺れたようにアカミネのスラックスを開く。
「あの女にどう擦り寄った?」
「え…?」
動きを止めたため手の甲で叩 いた。少年は憐憫を煽るように眉を下げ、まだ兆しのないそこに唇を這わせると口淫に集中した。大振りな肌塊を頬張る。潤んだ目が主人に許しを乞いながら舌慰する。下層のベランダは誰が見ているかも分からなかった。アカミネはレースカーテンに紛れているが、少年が何者かに口奉仕をしているのは丸見えだった。
「ぅ……んんっ、む、」
後頭部を押さえつけ、喉奥まで穿つ。
「ンッ……く、ん…!」
ぼろりと涙が瞳から落ちていくのを主人は愉快げに見下ろす。
「俺の婿は綺麗だっただろう?料理も上手い」
「ぅ……ん、くっ…」
薄い瞼が下がり大きな丸みを作った。頷いているに違いなかった。
「よく気が利いて、それに優しいんだ。何より俺を愛していて、俺も彼を愛している。絶対、他の奴等と生でするな。口もやめろ。たとえ相手がカレシでも一夜妻でもな。あとはお前みたいなドブネズミは好きにしろ」
セックスの時のようにアカミネは乱暴に腰を振った。少年の喉は獣のような声を漏らし、唾液を散らす。
「二度とうちには来るな。あの女とも縁を切ることだな。住む世界が違う。自覚しろ、お前はドブネズミなんだ」
「ひゃ……ぃっ、ぐぐ、く…」
下生えに小さな鼻が埋まるほど奥に納め、射精する。煌めいた瞳が細まりまた一粒二粒涙を流す。
「言ってみろ?お前はバカだからすぐに忘れる。お前はドブネズミだ。3回繰り返して肝に銘じろ」
「おでは……っ、ドブネズミ。おで……っはドブネズミ、おではドブネズ、ミ…」
喉を押さえ、咳を殺しながら栴檀は命令に従った。涙がベランダに染みていく。
「ごめ……なさ、デス。も、二度と、お邪魔しないデス。も……二度と」
「もう二度とあの女とも関わるな。あれは俺の婿のお気に入りだからな。お前みたいな淫売が近付いたら品位を損ねる」
「あ……う、」
「返事は?」
金髪は俯いたまま震えていた。返事を待つのも時間が惜しい。
「ドブネズミが」
「ごめんなさ……」
「二度とうちには来るな。ここにも上げるな。それは分かったな?」
「は、い…」
目の前で大窓を閉めた。帰ろうと玄関まで行くとドブネズミが飛んで来る。
「イノイお姉さんトハ、まだ……一緒に居たいデス……ゴメンなさい。許してクダサイ……何デモしますカラ………」
「何でもするのか。たまげたな」
三和土で身を翻し玄関扉に背を向けた。
「ここで謝罪オナニーしろ」
鼻で嗤った。少年は狼狽えた。
「俺に逆らったんだ。誠意をみせろ。出来るよな。何でもするんだろう?」
「はい……デス」
ルームウェアと化したワンピースタイプの服の裾を捲った。メンズパンツを下げ、彼はゆっくり前を揉み込んだ。
「あのつまらなげな女がそんなにいいのか?ドブネズミのお前にも優しいからか。ドブネズミに対しての施しだ、あれは。お前はこの社会で掃いて捨てられて然る存在なんだからな」
「存じテ…、おりマスです……っ」
萎えた場所を彼は懸命に扱く。
「お前が誰とどうなろうが俺には関係ないがな。俺の婿に関係がなければ…」
淫売夫の飾り棒はいつまで経っても勃たなかった。アカミネは気紛れに彼を四つ這いにさせ、窄まりへ指を挿す。
「ぁう…!」
「ここで勃たせろ。生ではするな、絶対にな。お前と違って俺の婿は清らかなんだ。俺が病気を移していい相手じゃない。お前がどうなろうが知ったことじゃないが、俺の大事な婿はどこもかしこも純真無垢だからな」
雑な抽送に淫売夫の小生意気な熱 りが忽 ち反応を示す。腰を突き出しさらなる刺激を求めるようであった。挑戦的に嚢が揺れる。天を仰いでいた掌を回し、親指で筋を押した。
「あ……うぅ!」
透明な糸が玄関マットに滴り落ちる。
「何をひとりで気持ち良くなっている?謝罪しろ。自分でオナニーもできないガキが」
泣き叫ぶような謝罪が何度も何度も玄関に木霊した。迫り来る絶頂を圧殺されても前言を撤回しない淫売夫の馬鹿さにアカミネは呆れながら彼のオーガズムを迎える姿も見ずに帰路に就いた。
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