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第9話

 BGMのジャズが、もう何曲目か解らなくなるほど時が過ぎると、廉はさらに酔いが回り省吾に絡むようになっていた。 「ね、甲斐さんも、僕はもうクビだと思ってますね。だから最後に、こんな送別会してくれてるんですよね」 「意外だな。三好は酔うと絡み癖があるのか」  陽気になって歌い出す、と思っていた省吾だ。  それほど、普段の廉は明るかった。  今回の失敗がある前は。 「過ぎたことを悔やんでも、仕方がない。それより、もっと前を向け」 「職探し、ですか?」 「だから、クビにはならないと言ってるだろう。経営会議で決まったんだ。三好は今まで通り、俺の下で働いてもらうぞ」 「マジですか!?」 「嘘をついてどうなる」  やった、と廉は省吾の首に抱きついた。 「よかった! ありがとうございます、甲斐さん! みんなみんな、甲斐さんのおかげです!」  アルコールの匂いに混じって、廉の香りが省吾の鼻をくすぐった。  柔らかい髪の、ふわりと甘い香り。  省吾は、それを深く吸った。  ああ、まるで媚薬だ。  時刻も遅くなり、ジャズの調べもムーディーなものに変わっている。  こくり、と省吾の喉が動いた。

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