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弟の悦び14
塾を終えて自宅に帰る。部活をサボったおかげでいつもより早く帰宅できたが、弟がいる家に帰るのは正直気が重かった。
「ただいま……」
リビングのドアを開けた瞬間、ソファに座っていた辰之が振り返った。大きな瞳が俺を捉え、じっと見つめてくる。テレビでは弟の好きなバラエティ番組が賑やかに流れていたが、その音が急に遠く感じた。
「兄貴、おかえり!」
いつもと全く変わらない明るい声と笑顔に、俺は面食らった。
「あ……うん」
「父さん、出張先でトラブルがあって今夜は帰れないって。母さんはそれ聞いた途端に友達とカラオケ行っちゃったよ。ご飯はテーブルの上に用意してあるから、チンして食べてねってさ」
弟は母の伝言をさらっと言い終えると、再びテレビに視線を戻した。さっきまで俺を凝視していた熱い視線が外れた瞬間、ようやく身体の金縛りが解けた気がした。胸を大きく上下させ、平静を装って自室に向かおうと踵を返した。
その瞬間——背後に勢いよく何かがぶつかってきた。細い腕が俺の胴に素早く絡みつき、逃げられないようにがっちりと固定される。ボディソープの甘いフローラルな香りが、ふわりと鼻をくすぐった。
「兄貴、あんなことわざわざしてまで……僕に嫌われようとしたんでしょ?」
背後から聞こえる声は、テレビの賑やかな音とは対照的に低く、ねっとりとしていた。怒りでも、悲しみでもない。まるで獲物を前にした獣のような、甘く危険な響きが耳に届く。
「……ああ、そうだ。好きでもない相手とヤった気分は、最低だったろ」
俺が忌々しげに吐き捨てると、辰之はくすくすと喉の奥で笑った。
「さすが兄貴が選んだ相手だよね。若林先輩……僕の躰、震えちゃうほど感じまくったよ。すごく上手だった」
言いながら、俺の腰に回した腕にさらに力を込めてくる。痛いくらいの強い抱擁に、弟の体温と柔らかい胸板が背中に密着するのがはっきりとわかった。
「すごく上手って……」
「だって兄貴は、僕の乳首と尻穴しか刺激しなかったでしょ? 若林先輩はちゃんと僕の感じるところを探してくれて……あちこち丁寧に触って、舐めて、噛んでくれたんだ」
辰之は俺の耳元で甘く囁きながら、俺の胸を指先で軽く撫で下ろした。意図的に俺を煽っているのが丸わかりだった。
「俺と比べるなよ」
「比較させるような真似をした兄貴に、そんなこと言われたくないな」
弟の声は甘く溶けるように低く、俺の背筋をぞわぞわと震わせる。腰に回された腕はますます強く締まり、まるで二度と離すつもりがないかのようだった。
(くそ……コイツ……完全に俺の作戦を見抜いている……それどころか、楽しんでやがる)
俺は歯を食いしばり、弟の腕を振りほどこうとした。しかし辰之はさらに身体を押しつけてきて、俺の耳たぶに熱い息を吹きかける。
このままでは危ない。本当に、危ない——。
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