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兄貴の困惑9

 上目遣いで口を半開きにしたまま、若林先輩の肩に両腕をかけて、いやらしく腰を動かす。  僕の躰は兄貴だけのもの――この人と肉体的な関係を築くより、玩具という道具でプレイしたほうが、まだ穢れずに済むと考え、淫靡に乱れる姿をあえて見せつけてやった。 「あっ…ああん! やぁっあっ…んぁっ……」 「きーまり! バイブにするわ」  喉仏を動かしながら生唾を飲んだ若林先輩の選択に、思わず笑いだしそうになる。自分なりに甘い喘ぎ声をあげつつ、イキたいのを我慢してますという顔を必死に作り込み、道具を選ぶように誘導したのが功を奏した。 「辰之くんがバイブの振動で感じてるところ、すっごく楽しみにしてる」 「頼むから、バイブの振動を最強にしないでよ」 「あまりの気持ちよさに我慢できなくなってどこかへ行ったり、俺から逃げようとしたらそうするかも」  若林先輩がセリフを言い終える前に、予鈴が教材室に響き渡った。僕は慌てて、開けているワイシャツのボタンをはめる。 「はいはい。若林先輩から最終攻撃をされないように、それなりに頑張りますよ」 「そうやって無理して意地はってるところ、俺の好みだけどな。さっきだって、相当感じていただろう?」  名残惜しいと言わんばかりに僕の首筋に顔を寄せて、チリっとした痛みを肌に残した。嫌なそれを右手で拭ってから、教材室をあとにする。あからさまに冷たい態度をとる僕を、若林先輩はどんな気持ちで見つめていたかなんて、知る由もなかった。

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