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兄貴の困惑11

 恐るおそる大きな背中に両腕を回した。縋りつくようなそれは外されることなく、兄貴は僕の躰をさらにキツく抱きしめる。 「辰之お願いだから、自分を大事にしてくれ。頼む……」  これだけ密着度の高い抱擁だからこそ、僕の下半身の変化が伝わっているはずなのに、躰に巻きついた兄貴の両腕の力が緩められることはなかった。それは僕にとってとても嬉しいものなのに、どうして胸がしくしく痛むんだろうか。 「兄貴、苦しいよ。それ以上抱かれたりすると、この間みたいに僕から襲っちゃうかもしれない」  兄貴の背中に触れていた手で、服をぐいぐい引っ張った。それを合図に躰から両腕が外される。 「兄貴が思いやってくれる気持ちと僕の気持ちは、種類が違うことくらいわかっているでしょ。大好きな兄貴にこんなことされたら、期待するんだって。それによって、僕がどんどん傷ついていくのがわからないかな……」 「ごめん。だけど俺のせいでおまえが、嫌なことを若林先輩に強要されているのをわかっていながら、見過ごせるわけがないだろ」 「俺に同情しないでよ! 穢れてしまった俺なんて、兄貴に愛される資格がないんだから!」 「辰之、おまえ――」 「兄貴なんて大っ嫌いだ!!」  目の前に立ち尽くす兄貴に体当たりして、部屋から逃げ出した。いろんな感情がこんがらがって、涙すら出てこない。そのまま自分の部屋に飛び込み、鍵をしっかりかけた。 「俺は……いや僕は兄貴が大嫌い、になれば…きっと楽になる、はず」  兄貴の望んだ展開になったことで、互いがしがらみから解かれると思った。このまま兄貴を嫌いになれば、昨日よりも楽になるはずだと信じて、呪文のようにリピートする。 『宏斗兄さんなんて大嫌いだ』  目をつぶり心に信じ込ませるように、延々と唱え続けたのだった。

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