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兄貴の悦び14

 図星をさされた兄貴は少しだけ唇を突き出し、面白くなさそうな表情をありありと浮かべて、そっぽを向いてしまった。僕の読みがことごとく当たってしまうことについて、こういうときは駄目だなぁと思わずにはいられない。  兄弟喧嘩と恋人同士のケンカは、そもそも質が違う。しかも喧嘩したときは、決まって先に折れるのは兄貴だった。僕から修復したことがないゆえに、対処に困り果てる。 「怒らないでよ、宏斗兄さん」 「いつまでもそこに突っ立ってないで、座れば?」  しょんぼりする僕に、兄貴の乾いた声がかけられた。素直にそれに従ったが、ひとり分のスペースを空けて座る。本当はもっとくっつきたかったけど、兄貴から漂う雰囲気を察して行動してみた。 (う~っ、もどかしい! こういうときはなにを話せばいいのか、全然わからないや。友達相手だったら適当に笑って誤魔化すとかできるのに、大好きな兄貴が相手じゃ、喋った分だけ自分の首を絞めるような気が激しくする。さっきだって妬いてる発言した兄貴に、思いっきり対抗しちゃったし……)  首をもたげて足元を見ていると、膝に置いた手に兄貴の手が重ねられた。ぎゅっと強く握りしめるなり、横に小さく引っ張る。  兄貴の握力なら、簡単に僕を引っ張って近づけることができるというのに、あえてそれをしないのはどうしてなのか。こっちの想像を超えることばかりする、兄貴の考えがまったく理解できない。  恐るおそる隣を見ても兄貴の顔はそっぽを向いたまま、相変わらず僕を見ていなかった。だけど頬がほんのり赤くなっているだけじゃなく、耳まで赤く染まっていた。  僕は迷わず兄貴の躰にしがみつく。掴まれた手を放り投げるという荒業つきで! 「辰之っ!」 「機嫌直してほしいな。どうすればいい?」  僕が抱きついたことにより兄貴の長い前髪が乱れたので、手櫛で優しく整えながら問いかけた。こっちを向いた兄貴の面持ちは、最高潮に赤くなってる状態。 (きっと僕が潤んだ瞳の上目遣いで、ぐぐっと顔を寄せたことにより、兄貴はパニックになっているのかもしれない。ということにしておこう) 「辰之、ちょっと近いって。周りに変に思われる……」 「別に良くない? だって僕らは兄弟なんだし」  実際は兄弟を超えた間柄だけどね。こういうときは兄弟っていうのも、便利なものだな。

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