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特別番外編【Voice2】
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黒瀬をずっと見ていて、気づくことがあった。それは好きな相手について。
義理の兄を見る目が、ほのかに熱を帯びていること。よく見なければわからないそれは、俺や他の連中を見る目と明らかに違っていた。そして黒瀬と一緒にいて、憧れを超える想いを何度も目撃することになる。お蔭で何度も複雑な心境に陥った。
「あれ黒瀬? どうしたんだ?」
バレー部の部室の扉を開け放ちながら、ロッカールームの前にいた黒瀬に声をかけた。黒瀬が立っている場所は、彼の兄が使うロッカーの前だったので、なにかを渡すためにそこにいるのは瞬時に理解した。
「は、箱崎ぃっ…これから休憩?」
思いっきり上擦った声を出した黒瀬に、いつもどおりに接することを心がける。俺が不審に思って変な態度をとってしまったら、きっと黒瀬が傷ついてしまうと考えた。
「うん。スポドリ出し忘れちゃって。もしかして黒瀬先輩になにか差し入れしようと思って、こっそり来たとか?」
驚きの眼で俺を見るので、そっと助け舟を出してやった。
「差し入れじゃなく、新しいタオルを入れておこうと思ってね。毎朝お母さんに注意されてるのに、古いのを出し忘れるんだよ。うちの馬鹿兄貴は」
「ということは、黒瀬先輩がさっき使っていたのは、古いタオルってことなんだ?」
黒瀬の持つタオルに、チラリと視線を飛ばす。
「箱崎の読みどおり、本当にだらしない兄貴だよ」
「休憩中だし、直接渡したらいいんじゃないか?」
俺としては当たり前のことを言ったつもりなのに、なぜだか黒瀬は狼狽えた。
「いや、その……ちょっと顔を合わせたくなくて。現在進行形で兄弟喧嘩中でさ」
「へぇ珍しい。でも仲がいいほど喧嘩するって言うもんな。俺から渡してやろうか?」
「助かる、これお願い……」
黒瀬が手に持っていたタオルじゃなくて、ロッカーの中から出したタオルを、俺に押しつけるように渡された。
(持っているタオルに顔を押しつけて、黒瀬はなにをしていたんだろう?)
このときは若林先輩をまじえてゴタゴタしていた時期だったらしく、黒瀬先輩も黒瀬と微妙な距離感を保っているのを、バレーの練習のときに垣間見たのだった。
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