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特別番外編【Voice3】
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バレー部の部室で、自分の兄の使用済みタオルに顔を埋めて呼吸を乱し、瞳を潤ませながら赤面していた黒瀬。
義理の兄がめちゃくちゃ好きなクセに、若林先輩がいつの間にか彼の傍に寄り添っていた。しかも仲睦まじそうに。黒瀬の華奢な首筋にキスマークをつける距離になったのには、正直驚きだった。
クラスメートで友達の俺じゃなく、これまでまったく接点がなかったのに、兄を介していきなり黒瀬と仲良くなった若林先輩。
ゲイバレしないように気を遣ってる俺じゃなく、正々堂々とゲイだと公表している若林先輩。
どうしてあんなヤツと黒瀬が、一瞬でも付き合うことができたのか――。
俺とは真逆のタイプの若林先輩が、大嫌いだった。黒瀬が絡んでから、嫌いという気持ちに拍車がかかるのは必然で、あからさまに避けていた人物でもある。
目に余るほどに熱々の黒瀬兄弟と屋上で別れて、しょんぼりしながら階段をおりていたタイミングで、若林先輩が目の前を横切った。俺としてはそのままやり過ごしてほしかったのに、なぜか立ち止まり、「よぉ」と気安く声をかけられてしまった。
なんて返事をすればいいのかわからなかったゆえに、奥歯をかみ締めながら、小さく頭を下げて若林先輩の脇を通り過ぎた瞬間、ちょっとだけ躰がぶつかってしまった。目の端に映る四角いもの。スマホが真っ白いコードと一緒に、床に向かって落ちていく。
バレーボールを拾うように腰を屈めながら、それをキャッチしようとしたが、親指の付け根に当たってしまった。小さく弾んだスマホの落下地点を予測し、今度はちゃんと捕まえて、ぎゅっと握りしめると、繋がっていた白いコードがひょいと抜けてしまう。
『うっ…も、いやだ……。こんなの、僕は兄貴だけなのにっ…ひっ、動かさないで』
聞き覚えのある声が、大きなボリュームで廊下に響き渡ってしまった。
「やべっ!」
若林先輩の慌てぶりとは裏腹に俺は至極冷静にスマホの画面をタップし、音声をオフにした。
「箱崎っ、俺のスマホ返してくれないか」
ヤバいものを俺に聞かれたせいで、若林先輩の顔色が明らかにいつもと違って見える。先輩風を吹かせるウザい彼に口撃して、これまでのうっぷんを晴らすべく突っ込んでやろうと思った。
「どういうことか、説明してくれますよね?」
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