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特別番外編【Voice12】
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公園のベンチに座って待っていると、あからさますぎるくらいにニヤけた若林先輩が、全力疾走でやって来た。
「いやぁ、持つべきものはしっかりした後輩。黒瀬に相談してよかった、やっぱり頼りになるな!」
息を切らしながらバカでかい声で言うなり、真横に座る。くっつきそうなその距離に辟易して、少しだけ横にズレた。
「箱崎、俺のこと嫌いになったのか?」
(どうして、好きなこと前提で訊ねてくるんだよ――)
「元々好きじゃないです」
視線を合わせずキッパリ断言したというのに、若林先輩の質問が止まらない。
「好きじゃない俺をヤったくせに?」
ニヤニヤしてる感じが口調に表れているせいで、俺のイライラを思いっきり誘う。
「あれは黒瀬の報復でヤっただけであって、嫌いに拍車がかかりましたよ!」
「そうなんだ、ふぅん」
言いたいことを若林先輩に言ったからこそ、この場を早く立ち去りたかった。
「あのっ!」
「あのさ!」
お互い同じタイミングで、顔を突き合せながら話しかけたことで、思わず見つめ合った。息ピッタリなことに内心ゾッとする。
「箱崎、その……。失神した俺の後始末サンキューな」
恥ずかしげに頬を染めてお礼を言うもんだから、なぜだかこっちまで恥ずかしくなる。まじまじと俺を見つめる若林先輩の視線を、首を動かして外しながら説明した。
「あれは俺が強引にあそこに連れ出して、苛立ち任せに若林先輩を蹴飛ばし、制服を汚してしまったんですから、ちゃんとするのは当然でしょう」
「でも嫌いな相手なのに、普通は放置すると思うけどなぁ」
「嫌いでも中途半端にしたまま帰るのは、人としてどうかと思います」
「……マジメくん」
聞こえるかどうかの声量で告げられたセリフは、しっかりと耳に届いた。
「不真面目を極めてる、若林先輩に言われたくないです」
「ちなみに最後までヤったのか?」
バリタチで早漏の先輩が一番知りたかったであろう過去の出来事を、きちんと答えてやろうと思った。
「白目をむいて気を失ってる相手を前にして、イケるような神経を俺は持ち合わせていません」
「マジか。おまえのブツ、相当ヤバかったからな」
「そりゃどうも。それじゃ!」
争い事を避けるべく爽やかに告げて腰をあげた途端に、若林先輩に腕を掴まれて動きを止められてしまった。
「待てよ。話はまだ終わってない」
「俺は話なんてないので、失礼したいんですけど。こんなふうに無理やり引き留められると、若林先輩のことをもっと嫌いになります」
「うっ……」
夜目でもわかるくらいに、若林先輩の頬が赤く染まった。今の状況がどうにも理解できなくて、中途半端に腰をあげたまま固まるしかない。
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