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特別番外編【Voice15】
俺は間違ったことを言ってない。だってキモいものはキモいし、ドMを相手にする性癖の持ち主じゃないんだ。それは譲れない事実なのに――。
「箱崎の下の名前って、慎太郎だっけ? 慎ちゃんって呼んでいい?」
「ヒッ! アンタの口から俺の名前を呼ばれたくない!」
「じゃあ慎太郎くんって呼んであげる♡」
「だ~か~ら~名前を呼ぶなと言ってるだろ!」
どうしてこんなにも、会話がすれ違うのやら。もしや若林先輩の馬鹿さ加減が、一級品なのかもしれない。
「名前くらいいいだろ。仲良くしたいんだって」
「…………」
返事をしたら負けな気がしたので、口を噤んでみる。
「箱崎の名前呼びが駄目なら、俺を名前で呼んでみて」
「…………」
早く帰りたい。無駄な話し合いほど、時間がもったいないと思われる。
「ほらほらー、アキラって呼んでみ。もしくはアキラ先輩でもいいぞ!」
「…………」
「言わないと、ここから帰さない。俺ってばうっかり、箱崎のこと襲っちゃうかもしれない」
(――パワハラとセクハラのダブルコンボって、マジで最低だろ)
目の前で舌なめずりする若林先輩が今にも俺を襲ってきそうで、恐怖が俺の躰を包み込み、足がピクリとも動かない。気持ちは強く回れ右してるのに!
「ひとこと呼べばいいだけなんだぞ。簡単なことだろう?」
両手を揉みしだくように動かしながら、俺に近づく若林先輩。あまりの気持ち悪さに、吐き気をもよおした。
「うっ……」
「アキラって呼んでみろよ」
口元を押さえて吐き気をやり過ごしてる間に、若林先輩に空いてる手を握られてしまった。
「ほ~ら、ア・キ・ラ」
「あっ…あ、あぁあ」
戸惑いまくる俺の顔を見つめる若林先輩が、口パクで『アキラ』と告げた。それに倣うように仕方なく呼んでやる。
「あ、アキラ」
「うんうん。箱崎の口から俺の名前を呼ばれる日が来るとは。これって運命しか感じない」
「呼んだんですから手を放してください。もう帰ります」
「わかった。言質はバッチリとったし、俺のコレクションが増えたことが嬉しくてならない」
言質やコレクションというワードに、ゾクッとしたものを感じた。名残惜しげに放された手を反対の手で握りしめ、恐るおそる訊ねる。
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