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特別番外編【Voice16】
「言質をとったということは、もしや……」
「ああ。箱崎に逢ってからの会話を、スマホで録音させてもらった。ちなみにこの間削除された黒瀬弟の音源は、しっかりバックアップしてたから大丈夫だった件♡」
「なっなっ、なんだって!?」
(俺の声はどうだっていい。だが黒瀬のあの声は駄目だ、絶対に許せない)
怒りでカッとなって、若林先輩の胸ぐらを掴んでいた。
「おっと積極的だなぁ。もしかして箱崎も、黒瀬弟の声が欲しかったりするのか? 巨根をあれだけ勃たせるアイテムだもんな」
「欲しくない。アンタが黒瀬の声を持ってるのが嫌なんだ」
「だったら取引しよう」
目の前で嫌な微笑を浮かべる面持ちに、胸ぐらを掴んでいた力が、するっと抜け落ちていった。若林先輩から告げられる言葉を簡単に導けてしまったゆえに、目の前がくらくらする。
「箱崎が俺と付き合ってくれるなら、黒瀬弟の声は削除してやるよ」
もしかして黒瀬の声を使って取引しようと考えていたから、俺とのやり取りを最初から録音していたのかもしれない。
「汚ねぇな、黒瀬の声を取引に使うなんて。俺の選択がわかってるからだろ」
「わかってるもなにも、おまえと付き合えるのなら、自分の命をかけてもいい。それくらいに箱崎は俺にとって、価値があるってことさ」
若林先輩に利き手の手首を掴まれて、引きずられながらベンチに戻されてしまった。ガックリと俯いて、端っこに腰かける。
「とりあえず俺と三ヶ月付き合えたら、黒瀬弟の入ったデータを、箱崎自ら消せる権利をやろう」
「はい……」
「無理して深い仲にならなくてもいいが、まずはおまえ、彼女と別れろよな」
「わかりました」
テンポよく次々と決め事していく若林先輩に、拒否できない立場の俺。だけど黒瀬の声を消したら、すぐに別れることは決まっていた。
「箱崎、一応付き合うんだから、俺の名前呼びは必須な」
「うっ、アキラ先輩って呼びます」
覇気のない口調で告げたのにも関わらず、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「いいねいいね。あ~この三ヶ月そうやって呼ばれると考えただけで、箱崎を絶対に堕としてやるっていう気力がみなぎってくる!」
「え?」
「仕方なく付き合うおまえを、俺は堕とすっていう話さ」
若林先輩は糸のように瞳を細めながら、俺の太ももの際どいところに手を置く。人差し指が太ももの内側をゆっくりなぞるのだが、気持ち悪くて仕方がない。迷うことなく、手の甲を摘んでポイしてやった。
「深い仲にならなくてもいいのに、なにするんですか」
「俺の手で感じる、エッチな箱崎の姿が見たかっただけ。付き合うんだから、軽いスキンシップくらいいいだろ? じゃないと黒瀬弟の音源消せないぞ」
こうしてなにかあるたびに音源の話を持ち出され、結果的には俺のガードを緩められてしまったのである。
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