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智久さんとは俺が中二の頃から付き合っている恋人だ。 格好良くて、綺麗で、優しくて。 年は俺より十歳ほど上なんだけど、そんなこと全然関係ない。言うことなしの俺の自慢の恋人だ。そんな恋人である智久さんに、今日は入学祝いをしてくれるって約束してたんだけど。 約束の時間からもう二時間は経っている。18時から待っているから辺りは既に真っ暗だ。 言っておくけど、約束すっぽかされたとかじゃないから。さっきメールで仕事で遅れたすぐに行くって書いてあった。 ちゃんとメールもあったし、もうそろそろ、来るはずなんだけど…… 「あっ、きた!」 炭を溶かしてぶち撒けたような暗闇に、獣のような低い唸り声が聞こえてくる。声のする方に顔を向けると、暗闇の向こうに白く光る目があった。それは段々とこちらに近づいてき、白く光る目はバイクのヘッドライトで声の正体はエンジン音だった。暗闇と同じ色のしたバイクが俺の横に止まる。 「智久さん!」 声を掛けると、バイクから智久さんが降りる。 ライダースジャケットに黒いジーンズを身に纏っており、細身ながらも適度に筋肉がついていて、その出で立ちを美しく魅せた。ヘルメットを外すと、これまた端整な顔立ちをしていて、涼しげな目元に形の良い眉毛、すっと通った鼻筋、一つ一つのパーツが惜しげもなく晒されて、同時に大人の色気までも溢れ出してきたような錯覚さえする。頬に張り付いた横髪を撫で付ける仕草すら、なんとも様になっている。 暗がりで良かった。きっと、日が照らしている時に道行く人がこの姿を見れば卒倒しかねない。 「…ごめん、遅くなった。一日、空けとくって言ってたのに」 申し訳なさそうにたどたどしく言う智久さんの瞳には、薄く水の膜が張ってある。今にも泣きそうで、加護欲を掻き立てられる姿に堪らずぎゅっと抱きしめた。 「ううん。智久さんにそう言ってもらえるだけで嬉しい。ありがとう」 身体を少し離し、その薄い唇にキスをする。 角度を変えて、啄むように何度も重ねると智久さんから小さな吐息が洩れた。口端に笑みを浮かべ、耳元に唇を寄せる。 「明日も早いの?」 声を掠れさせて切なげに問えば、腕の中にいる智久さんの身体が小さく跳ねた。みるみるうちに頬が赤く染まり、居心地の悪そうに身じろぎだす。意地悪だったかな、と笑みをこぼすと智久さんの潤んだ瞳が俺を睨み、ついに観念したように口を開いた。 「…休み、だ」 消え失せるような声だったけれど、はっきりと聞こえた。瞬間、俺は智久さんにバレないよう小さくガッツポーズをした。

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