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睦月と出会ったのは、俺が5歳の時。父さんの仕事上の都合で関西から東京に転勤することになり、たまたまお隣さんだったのが睦月の家だったのだ。弟も同じ年、兄も同じ年という奇遇な組み合わせに親達はすぐに意気投合。母さんに至っては、慣れない地で初めてできたママ友の睦月のお母さんと今でもしょっちゅう買い物に行っている。
親がこんな風に仲が良いので、俺たちも必然と仲良くなり……いや、あんまり仲が良いと称されるものではなかったけど一緒にいることは多かった。
小学校、中学校、高校と睦月とは同じで順調に幼馴染の関係を築いてきた俺たちが、どうして恋人になったのか。それが一番気になるだろうけど、それは追い追い語っていくとしよう。
今はまず、小学校の時から変わらない寝坊助を起こさねばならないのだ。
朝に幼馴染が起こしにいくって、これなんてギャルゲー?
「いい加減、起きろ!!」
布団を剥ぎ取り、カーテンを開ける。見下ろせば、イモムシのように丸まっている睦月がもぞりと身じろいでいる。窓から射し込む朝日に眩しそうに眉間に皺を寄せうっすらと目を開いた。
「……眩しい」
「朝やからな。おはようさん」
そう声を掛けて、窓を全開にしてやる。朝の新鮮な空気を胸一杯に吸い込み吐く。今日も清々しいくらいのいい天気。
「……おはようさん、じゃないんだけど。何勝手に入ってきてるの」
ひとひとり殺せそうな眼力でこちらを睨む睦月が、最悪なくらい低気圧なのは知っている。
「いつもギリギリまで寝てるからやろ。ほら遅刻すんで」
朝の睦月がそりゃ不機嫌で怖いけど、10年以上していることだし、毎朝の日課として慣れた。
ほい、と制服を手渡し、どうせ授業の用意もしていないのだろうから準備もしてやる。
「……円、お前さ」
「ん? 早く着替えよ」
「おかんかよ。いや、おかんよりタチが悪いか……」
何かブツブツ言ってるけど、まともに返したら拗れる場合があるからスルーだ。のろのろとようやく着替え出した睦月を確認し先に降りる。
「あ……」
階段のところでばったりと皐月さんに出会う。この人もこの人で朝は弱いらしく、不機嫌そうに眉間に皺を寄せているが、俺の顔をみると「おはようございます」と会釈してくれた。
「毎朝、ご苦労様です」
「あっ、いや、いつものことですから……」
皐月さんを見ると否が応でも睦月とのアレを思い出してしまう。つい先日のことだから流石に気まずいと言うか、複雑な気持ちになる。それが顔に出ていたのか、皐月さんはうすら笑みを浮かべた。
「あぁ、もしかしてあの事気にしてます?」
「えっ……」
「すみませんね。貴方がいるのは重々承知なのですが、可愛い弟の頼みは断れなかったので」
すみません、と口では謝っておきながら全く悪気は感じられず、尚且つ言葉の節々に棘がある。
こいつら兄弟が異常なくらい愛しあってるのは分かっていたけど、ホンマに近親相姦までいくなんて。
それも可愛い弟の頼みって。睦月からやったんか。
「あんのボケカス……っ!」
「誰がボケカスだって?」
「……っ、睦月!」
頭上から声が聞こえてきたかと思うとすぐそこに睦月がいらっしゃった。
驚くより先に、後ろから伸びてきた腕が首を絞め、「ぐぇ」と変な声がでた。苦しい。
「ちょっと円で遊ぶのやめてくれない?」
「おや、本当のことを言ったまでですが」
「……それ以上言ったら兄さんでも許さないよ」
なんじゃこのピリピリとした険悪な雰囲気。真ん中におる俺がものすごく居た堪れないんですけど。
「えっ、えーっと! 睦月、ご飯食べよ!? それに俺、あの事もう気にしてないからっ」
「………は?」
二人の雰囲気が恐ろしくて、話を逸らそうとしただけなのに何故か睦月の矛先が俺に。その上、さっきよりも数段と機嫌が悪くなってる。
なっ、なんでなん!?
「失敗でしたね」
「え、何が……ぐぼっ!」
鳩尾を思いきり拳で殴られた。突然の痛みに
跪いて呻いていると、舌打ちと共に「死ね」と言われた。
意味分からんし酷い。恋人に吐く台詞とちゃう。
「お邪魔します。……ん?」
「ざがえ゛……っ」
ひょいと玄関から顔を出した栄が救世主様に見えた。ナイス、栄──
──パタン…
あいつ、一瞬で状況判断すると無言で扉閉めて逃げやがった!
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