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幼い頃、睦月は今よりずっと優しい子だった、と思う。今が素晴らしく俺に対しての態度が厳しいからそう思うだけかもしれないけど、それでも。 どこ行くにも俺の後ろについてきて、「円ちゃん円ちゃん」って呼ばれていた頃が懐かしい。 その当時のことは、睦月は忘れたい記憶の一部らしいので禁句ワードだけど、俺にとっては睦月と純粋に仲良かった時期のことだったから思い返しては少し寂しい気持ちになる。誤解しないで欲しいが、今の睦月が嫌だと言っているわけではない。仮にも好きで付き合っているのだし、睦月のことは昔も今も変わらず好きだ。 ただ、睦月が。 俺のことを本当はどう思っているのか不安なのだ。だって、睦月から愛情が感じられないんだもの! 「で、優しくされたいんやけど、どうしたらいいよ?」 「そんなん僕が聞きたい」 唯一の相談できる相手、栄に聞いてみたがそう答える栄の目が虚ろで、うわ……と若干引いた。見るからに栄も精神的にも肉体的にも自分の恋人の事で参っているようだ。 「……なんで、兄弟してDVな恋人に捕まえたんやろうな」 「捕まえたんじゃなくて、捕まったんや」 あぁ、うん。確かに……と一瞬、栄の一言に納得してしまいそうになったが、慌てて首を振る。 「いやいやいや、俺は睦月の事好きやからな? そりゃ、暴力とか浮気とかされるけど……」 「それでも好きって言えるお前が凄いわ」 「栄だって皐月さんのこと好きやん!」 「な……」 睦月と皐月さんが浮気していた時、珍しく栄が怒っていたのを覚えている。 間違いなくこの人も俺と同じで、自分の恋人がどんなに酷くても、どうしようもなく好きでいる。そんな所が兄弟似ている部分だなんて、兄弟揃って馬鹿らしいと思う。 「僕のことは今関係あらへんやん。お前が睦月くんに優しくされるには、って話やろうが」 照れているのか栄の頬が薄っすらと赤い。我が兄ながら少しだけ可愛いと思ってしまった。口に出したら絶対シバかれるから言わないけど。 「真面目に考えてよ」 「なんで上から目線やねん。うーん、そうやなぁ。あ」 「なになに? 思いついた?」 「前に僕があいつに『たまには優しくしてよ』って言ったら」 「おぉ!」 「虫ケラを見るような目で、『貴方に優しくする価値は一ミリもありません』って言われたなって……」 「………」 キッツイ、って思ったけど、似たような事を睦月に言われた覚えがある。ほんまに向こうも兄弟揃って似てるで……。 「優しくされたい」 穂高カップルみたいにラブラブとはいかなくても、普通に笑いあったりしたいだけなのに。 (そういえば……) 最近、睦月の笑った顔を見たことがないな、とふと思い出した。

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