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「睦月、遊園地行こう!」 「何いきなり。死ぬの?」 遊びに誘うのって生死が関わるような事だっけ。勿論、生きるけど。 「遊え……」 「行かない」 「ちょっ、ちょっと待ってよ」 無慈悲にも扉を閉めようとするので、体を無理矢理割り込ませて阻止する。チッ、と舌打ちする睦月だが、この誘いは是非睦月に頷いてもらいたい。 「たまにはさ、外で遊ぶのも良くない? デートしようよ」 「何でお前とデートしなきゃなんないの。しかも、遊園地って……小学生かよ」 「え、今時の小学生遊園地でデートするん? 凄い……じゃなくて! たまには恋人らしいことしようよ」 「は?」 低い声で睦月が聞き返す。眉間に皺が寄り不機嫌そうだ。余計な事、口走ってしまっただろうか。でも後には引けない。持ってきたバスケットを胸の所に差し出す。 「お、俺、お弁当作ってきたし遊園地で一緒に食べよう。お前の好きな甘い卵焼きとか他にもいっぱいおかず作ったから……」 「っ、だから、行くことも決めてないのに勝手な事すんなよ!」 「あっ…!」 ドンッと突き飛ばされ尻餅をつく。幸いなことにバスケットは床に落ちなかった。ほっと胸を撫で下ろし、睦月を見上げる。 「睦月……」 「……っ、」 何か言いたそうに口が動いていたが、キュッと唇を引き締めるとバタンと扉を閉めてしまった。閉ざされた扉の前で、睦月と名前を呼んでも返事は返ってこない。 やっぱり、ちょっと急過ぎたのかも。そもそも、睦月の笑った顔が見たいからって睦月の都合も考えずに誘おうとしたんが間違いだった。結果的に睦月を怒らせてしまうことになったんだから。 ごめんな、とだけ扉の向こうにいる睦月に謝って家から出て行く。じわりと目に涙が浮かんだが、手の甲で拭うとすごすごと自分の家に戻っていった。 「円」 家に戻るとダイニングに栄がいて、手にはスマホが握られている。心配したような顔で伺ってくる栄に、出来るだけ明るい表情で話す。 「あかんかった。そっちはどうやった皐月さん」 「行くわけない。て言うか、『失せろ』の一言で聞く耳持たへん」 実は俺と睦月、栄と皐月さんとで所謂ダブルデートを予定してたのだが、兄弟揃って敢え無く撃沈してしまった。予定するならするで前からきちんと考えるべきだった。無駄にお弁当も四人分作ってしまったりして、馬鹿みたいだ。 「円、そんな顔すんなや。せっかくやし、誰か他に誘って行こ」 「え?」 「遊園地のチケット4枚もう買ってんのに、行かんとか勿体無いやろ」 気落ちしている俺を気遣ってか、明るい声で言う。 「そうやけど、誰誘うん?」 「お前誰か一人誘ったら。僕も一人誘うから」 じゃあ、電話かけるからと握っていたスマホを操作する。栄が皐月さん以外に交友関係を持っているのが驚きで、電話する様子をマジマジと凝視した。 「もしもし、日吉(ひよし)くん? 僕、椎名ですけど。急な事で悪いんやけど、今日暇やったら遊園地行かへん?」 フレンドリーな口調で話す栄から、電話の相手は随分親しいのだろう。それにしても、本当に急な要件だと思う。が、 「え、来てくれる? ホンマに? うん、えっと、あー……あと一時間後くらいかな。みどり遊園地の入り口のところで待ってるわ。急にごめんな、ありがとう。それじゃ……」 電話の内容からどうやら栄の友達は来てくれるそうだ。そんな親しい友達が栄にいるなんて今まで知らなくて内心驚いた。 「来るん? 友達」 「うん。僕、用意してくるから円も早く連絡しいよ」 言うと、二階に上がって行ってしまった。誰か誘ったらと言われても、栄の友達のようにすぐに乗ってくれるような友達は思いつかない。それに、友達と遊んだりすることを睦月が嫌がるから、あんまりプライベートで遊ぶ友達がいないのが事実だ。でも、栄がせっかく俺を気遣ってくれているのに無下にするのもな……。 (うーん、穂高とか……?) あいつなら彼女も居るし、もしも睦月にバレても大丈夫だろう。多分だけど。 少ない電話帳の中から、穂高の連絡先を見つけコールボタンをタップする。 プルル……と発信音が流れる中、そもそも、穂高は彼女といるかもしれないから電話すら出ない可能性の方が高いな、なんて今さら思ったりもした。 『はい』 「うわっ…!」 そんな事を考えてた最中に、本当に繋がってしまって驚いた。思わずスマホを落としそうになり慌てて持ち直す。 『はい?』 「あっ、もしもし? 椎名やけど」 『何だお前かよ、切っていい?』 「俺で悪かったな……! て言うか、俺の名前表示されるから分かるやろ」 『電話番号登録してねぇから出ないんだよ。切っていい?」 「登録してよ! それと、そう直ぐに切りたがるのやめて!」 『チッ、用件は?』 あからさまに舌打ちが聞こえたけど、こいつ……。て言うか、電話するのも実際に会っても態度は変わらない奴だな。 「えっと、穂高、今日ヒマ?」 『はぁ?』 「あのな、ヒマやったらでええんやけど、もし良かったら遊園地行かへん?」 『お前と俺で?』 「あ、いや、兄貴とその友達もおんねんけど、チケットが一枚余ってて。それで、穂高どうかなぁって」 『ふーん、何で俺誘うんだよ。宝木は?』 「え、睦月?」 いきなり睦月の事を聞かれてドキッとする。なんで、穂高が睦月の事なんて…… 『お前ら仲良いんだろ。俺じゃなくて宝木誘った方がいいんじゃねぇの』 「いや、睦月は……遊園地とか、好きじゃないから。それに、睦月と俺、そんなに仲良くないよ……」 ギュッとスマホを握る手に自然と力が込められた。自分で言ってて無性に悲しくなった。 電話の向こうで穂高が「円?」と俺の名前を呼んだのが聞こえ、慌てて取り繕う。 「あっ、別に用事あるんやったらええよ。悪かったな、電話し」 『いいよ、行く。男ばっかで遊園地とか色々キツイけど。何時?』 「え、マジで……? あ、ありがとう! えっと、今から一時間後くらい。みどり遊園地の入り口の所で待ってるから」 『はいはい、じゃあな』 ブツッと電話が切れる。まさか穂高が来てくれるなんて、どういった風の吹き回しだろう。 仕方ない。ソフトクリームぐらいは奢るか。

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