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「は〜〜、めっちゃ遊んだなぁ!」 ぐぃーっと腕を伸ばして背中を反る。久々の遊園地、楽しすぎて日が暮れるのがあっと言う間だった。 「お前ね、はしゃぎすぎ。僕ら置いてけぼりやったで」 「そんなことありませんよ。楽しかったです。それにお弁当も美味しかったですよ」 「ホンマに!? 良かったぁ、無駄にならんで済んで」 作ったお弁当は昼に四人で食べたけど、全部綺麗に食べてくれた。 日吉さんと穂高が来てくれなかったら四人分のお弁当はゴミ箱行きだったろうし、なにより残さず食べてくれたことが嬉しかった。 ……本当は甘い玉子焼きも海老フライも睦月に食べて欲しかった、なんてちょっとだけ残念に思う。 遊園地は楽しかったけれど、隣に睦月が居ないのは寂しい。やっぱり来たいな、睦月と遊園地。ダメ元でもう一度誘ったら来てくれるだろうか。 「さて、もう遅いし帰ろうか」 「あっ、待って。俺お土産買いたい」 「はぁ?」 「先帰っててもいいで! それじゃ!」 怪訝そうな顔をする栄達にそう言うと、足早に売店に向かう。 お土産はもちろん睦月に。正直、受け取ってくれるか分からない。それでもなんとなく睦月に渡したいのだ。 「あいつ何が喜ぶかなぁ」 売店の棚をぐるりと回って見ながら考える。あいつ甘いの好きやし無難にクッキーとか? でも、形に残る物もいいな。例えば、と視線を巡らせて目に付いたのはペアのキーホルダー。みどり遊園地、と名前に因んでクローバーをモチーフとしたガラス製のキーホルダーだ。 こういうのって売店で必ず見掛けるが、クソダサいし誰が買うねん、ってツッコミ入れたくなるけど俺は悪くはないなと思う。だって、これを持っているだけでちゃんとカップルとして認めてもらえるような気がする。 「それって宝木に?」 「うぉっ!」 背後から声を掛けられて心臓が飛び出るかと思った。ドキドキする胸を押さえて振り返ると、先に帰ったと思っていたはずの穂高がいて、俺の手にあるキーホルダーを目敏く見つけると首を傾げた。 「ペアのキーホルダー?」 「ちっ、違っ! これは、いつか恋人ときた時に買いたいなーって思っただけ! あ、穂高も立花さんにお土産!?」 慌ててショーケースにキーホルダーを戻す。ペアのキーホルダー見てボーッとしてたところを見られてたなんて恥ずかしい。 「……まぁそんなところ。でもそのキーホルダーはいらない」 穂高もこのキーホルダーはダサいと思うのか。まぁ、穂高のことだからペアの物を買うにしてもきっとオシャレな物をプレゼントするんだろうな。さりげなく二人で揃いの物を身に付けて、周囲に俺たちラブラブですよってアピールするんだ。それってやっぱり羨ましいし憧れる。同性である俺と睦月じゃ出来ないことだから。──ううん、違う。本当は睦月との関係が周りにバレたっていいと思っている。そりゃ、男同士なんて世間に爪弾きを食らうってことぐらい分かっている。でも、俺は世間よりも睦月を選ぶ。その覚悟は睦月と付き合ってから自分の中で固まっているのだ。だけど、睦月は── 「……か? ……おい、円ってば!」 「へっ! な、なに!?」 突然肩を揺り動かされてハッと我に帰る。 って、顔近っ!! 思いの外、穂高の顔が近くて驚く。穂高はため息を吐くと肩から手を離した。 「さっきから呼んでるんだけど。お前立ちながら寝てんのかよ」 「あっ…、ごめん……。ちょっと疲れ出てんのかも。ところでどうしたん?」 「どうしたん? じゃねーだろ、土産買うんだろ」 「そ、そうやった。なにしよっかな……」 最近、すぐに睦月の事で考え込んでしまう。理由は一目瞭然なのだけど。とりあえず、穂高の前なのだからしっかりしないと。考えを振り切るように目的のお土産を見つけることに専念する。 やっぱり睦月にはこっちのお菓子詰め合わせセットにしようかな。値段も手頃やし。 「お前はこれにしとけば?」 「え、うぶっ……!?」 モフッ、と顔に押し当てられた柔らかい感触。毛のようなものが鼻をくすぐってこそばゆい。 何すんねん! っと正体不明な柔らかい物体を顔から剝ぎ取ると、つぶらな瞳と目が合った。 「ぬい、ぐるみ?」 茶色のふわふわの毛で、耳がちいさく丸っこい。どこからどう見ても、くまのぬいぐるみだと分かるが、どうしてかこのくま、眉毛がついており尚且つ情け無く垂れ下っている。ふふ、と笑ってしまいそうなくらいの情けない顔。 「お前にはペアのキーホルダーよりそっちのぬいぐるみのが似合うぜ。それにそのマヌケ顔とか、お前に似てるだろ」 「似て……!?」 「それやる」 唐突にそう言う穂高に思わず、顔を見上げる。穂高の頬が薄っすらと朱を帯びていた。 「まぁ、何つーか、弁当のお礼? チケットもお前持ちだし」 だから、と歯切れ悪く言う穂高は照れ臭そうに頬を掻く。手元のくまのぬいぐるみを見ると値札がどこにも付いていなかった。と言うことは、前持って俺に渡すつもりで…… 「大丈夫か、穂高!? なんか悪いモンでも食ったか!? 」 って、穂高の口にした物って俺が作った弁当やん! おかず腐ってたとか? ちょっと気温高かったからあり得るかも……。 「……てめぇはよぉ、人がせっっっかく」 「いだだだだだ、ほっぺらのびううう!!」 ギチギチ、と音が聞こえるぐらい右頬をつねられる。ホンマに痛い、ギブギブ、と悲鳴を上げながら訴えるとようやく離してくれた。 あう、千切れるかと思った。 「穂高……」 「なんだよ。言っとくけど、変な物は食ってないならな。……弁当、フツーに美味かったし」 「え? 小さくて聞こえんのやけど」 「おっ、まえなぁ…」 いや、さっきのは穂高の声のボリューム極小すぎて本当に聞こえなかったから。穂高は、もういいよ、と諦めたような顔をして深くため息を吐いた。さっきから穂高ため息ばかり吐いてるけど、やっぱり疲れているのだろうか。 「穂高、ありがとうな」 ぬいぐるみもだけど、いきなり遊園地に付き合ってもらって。今日は穂高のおかげですごく楽しめた。 ギュッとぬいぐるみを抱きしめる。 「………睦月?」 何気なく穂高の後ろに目を向けたその時、ショーウィンドウの向こうに一瞬睦月の姿があった。気の所為、なんかじゃない。売店の前を通る人々は皆笑顔で楽しそうなのに、一人だけ今にも死にそうな表情した男がふらふらと前を過ぎて行った。 「宝木?」 「ごめん! 穂高、またな!」 「あっ、おい!?」 穂高が後ろで何か言っているが振り返る暇もなく店を飛び出す。睦月だという確証は無い考えるより身体が動いていた。人混みで睦月の姿は無かったが、自分の直感を信じて睦月の行った方向へ走る。人にぶつからないよう走っていると、ついに人混みの中にそれらしき後ろ姿を見つけた。 「睦月!!」 大声でそう呼び掛けるとビクリと肩が跳ねた。やっぱり、睦月! もう一度名前を呼ぼうとしたが、何故か睦月は俺から逃げるように猛ダッシュしやがった。 あ、あの野郎!! てか、早っ……!

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