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「最悪や、ほんまにお前信じられへん」 制限時間三時間+延長2回申し出た所で結局宿泊するはめになった。って、そうじゃなくて。 シーツに包まり、隣で無表情に煙草を蒸す男を横目で睨む。しかし、睨んだところでちっとも気にした様子もなく、ふぅと口から白い煙を吐き出した。煙たい。 「私も貴方のせいで人間不審になるところでしたよ。最愛の人に裏切られるなんて笑い話にもなりません」 「……冗談はやめぇや」 「冗談? 双方の彼氏をほっぽり置いて違う男とWデートに行く阿呆な浮気者がいるのは確かに冗談みたいな話ですが、それがいるんですよね。私の隣に」 「Wデートなんて、そんなんちゃうって……」 そもそも、そんな事を言うのなら最初っから皐月くんが了解してくれたら良かったやん。普段からこの男は理不尽な所しかないけど、ここまで理不尽な扱いを受ける謂れはない。むっときて、背中を向ける。 「知っていますよ。貴方が円さんのことを思って、睦月との仲を取り持つ為に企てた計画だと。だからこそ、嫌だったんです」 「……はぁ?」 「貴方が弟さんを大事に思う気持ちは分かります。私にも弟がいますから。でも、貴方が働き掛けたのが私以外であることが、どうしても気に食わないんですよ。それが貴方の弟であっても」 つまり、皐月くんが言いたい事は、円のためにWデートしようって言い出した僕が嫌で断った? なんやそれ。 「円にまで嫉妬してんのか。アホちゃう……」 本音が口に出てしまった。ギロリと睨まれ、煙草をじゅっと灰皿に押し付けると、シーツを剥ぎ取られる。あんなに散々したはずが、皐月くんの股間のモノは応戦状態でドン引く。性欲底無しかよ、皐月くんに再び付き合っていけるほどの体力はもう持ち合わせていない。 「無理無理無理っ、ごめん、ほんまにごめんなさい!」 青ざめて必死に今の発言を謝る。逃げようとするも足腰立てなくされてしまったので、手をブンブンと振るしかない。が、その手もあっけなく掴まれてしまった。しかもあろうことか、掴んだ手を強制的に皐月くんのモノに触らせられる。驚きと恥ずかしさで瞠目した。 「な、何して……」 「ん…。ええ、そうですよ。嫉妬です。年甲斐もなく、常に貴方の一番は私で無ければ気が済まないんですよ…。ふっ…」 しゅっしゅっ、と扱かされる熱い肉棒。こんな状況で無ければ皐月くんの台詞は普通ときめくものだろうけど、雰囲気ぶち壊しだ。やっぱり阿保だと口に出さないように心の中で留めた。 「し、嫉妬って、さ。君だって、前に睦月くんとその……」 「ああ、あれは貴方の反応を伺うのも兼ねて一役買ったんです。貴方も嫉妬して下さるのですね、大変可愛らしかったですよ。別れを切り出したのは少々いただけませんが」 「は、ぁ? なんやねんそれ……」 趣味悪い、と言おうとして唇を舐められた。執拗に唇を往復する舌、時折下唇を食まれる。舌出せってことなんかな? と、恐る恐る舌を出すと、優しく絡めとられ舌先を吸われた。ズクン、と疼く腰。あぁこんな恋人がするような甘いキスはずるい。いや、実際、恋人であるのだけれども。 「ン……しかし、よりによってあの男に声を掛けるなんて。貴方の頭の悪さには辟易しますよ」 「ん、ふ…あの男って、日吉くん? 違う、日吉くんはそんなんじゃ……」 「違う? 貴方、あの男が先ほどの貴方の声を聞いて何してたかご存知ですか。栄さん、ぶっ飛んでいて気付かなかったでしょうけど、貴方の声をオカズに抜いてたんですよ」 「えっ」 あの時、スマホから手を離してしまったから分からない。 日吉くんが、その、僕で……? 「好意のない相手、しかも同性の、そういう声を聞いて自慰しますか ? 普通は気持ち悪いと感じますよね?」 「う、嘘やん……」 あの人畜無害そうな顔をした日吉くんがそんな事をするのがどうしても想像出来なくて。しかし、僕が日吉くんを庇おうとすると、途端僕の手を握りこむ手が早くなった。ししどに濡れたカウパーが僕の手を濡らし、テラテラと光る色の濃くなった性器はあまりにも目に毒で。皐月くんの鎖骨あたりに顔を押し付けた。 「貴方のあんあん喘いでる声を聞いて、おっ勃ててこんな風にセンズリこいてたんですよ。明らかに普通じゃない気持ちを抱いている証拠です」 「…あっ、やめて……恥ずかしい…」 「日吉元親に自分で抜かれてるの想像したんですか?」 「違う! 君がわざと卑猥な言葉使ってくるからやろ!」 「ほーう、卑猥な言葉とは具体的にどうぞ」 「なっ……」 何やねんこいつ、さっきから! 人を疑ったり揶揄ったりしやがって! ムカついてぎゅうっと手に力を込めると、「っ」と皐月くんが息を詰めたのが分かった。少し痛かったらしい。はは、ざまぁみろ。 「泣かす」 「すんません」 はぁ、とため息を吐く皐月くん。いや、なんでお前がため息吐くのか。こっちが吐きたいっちゅーねん。 ぱっと手が解放される。 「貴方は昔から変態に好かれやすい質にありますね」 それは君のことか? 耳元で囁かれた言葉にそう反応すると、呆れたような蔑まれたような目で見られた。僕もどうして分かっていながら、煽るような言葉を吐いてしまうのか。それは、こいつとの付き合いが何だかんだいって長いせいにあると思う。 「あの日吉という男には注意なさい」 報復が来ると身構えていたら、それだけ残してベッドから出て行ってしまった。途中、脱ぎ散らかした下着を拾っていったので、シャワーを浴びにいったのだろう。 「意味、分からん」 僕の呟きは誰にも拾われず、ムードのある照明だけが照らす空間に吸い込まれていった。ただセックスするためだけに誂えた場所。声が隣の部屋に漏れないように完全防音なのだから、あいつにも届かなかったのだろう。 僅かに煙草の匂いを漂わせたシーツを手繰り寄せ、隣に熱が無いのを少し寂しいなと思ったのは、彼には言わない。

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